放置されている自転車や路上に落ちているものを持ち帰ってしまった場合、「占有離脱物横領罪」が成立する可能性があります。
占有離脱物横領罪の刑罰は比較的軽いものの、状況によっては逮捕されて実刑判決が下される場合があるので、もしも心当たりがある場合は早急な対応が必要です。
本記事では、占有離脱物横領罪の基本的な内容や該当するケース、逮捕されてしまった場合の対応方法について解説します。
「つい出来心で拾った財布を持ち帰ってしまった」など、身に覚えがある方はぜひ本記事を参考にしてください。
占有離脱物横領罪とは?他人の占有を離れたものを横領する罪
占有離脱物横領罪は、遺失物や漂流物、その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
刑法上では、横領罪の一類型に位置づけられています。
以下、犯罪の構成要件や成立するケース、法定刑や時効について説明します。
占有離脱物横領罪の構成要件
占有離脱物横領罪が成立する条件(構成要件)は、主に以下の2つです。
- 対象物が「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物」であること
- 対象物を横領すること
1・2のそれぞれについて、どのような物が当てはまるのかなどを以下で確認しましょう。
①遺失物・漂流物・その他占有を離れた他人の物
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物とは、占有者の意思によらずに占有を離れ、まだ誰にも占有されていない物をいいます。
たとえば、「道に落ちていた財布」「電車に置き忘れられた傘などの物」などが代表例です。
また、「その他占有を離れた他人の物」には、所有者の意思によらず偶然に行為者が占有するに至った物も含まれます。
たとえば、「郵便配達員が誤って配達した郵便物」や、「風で飛んできた隣家の洗濯物」、「店で多くもらったお釣り」などが該当します。
②対象物を横領すること
横領とは、自分の物ではないと知っていながら、その物を自分のために使ったり、取ってしまったりすることです。
たとえば、あとで警察に届けるつもりで道に落ちていた財布を拾った場合は、横領に該当しません。
一方で、落ちていた財布から現金を取って自分で使ってしまった場合は、横領に該当します。
占有離脱物横領罪に問われる可能性がある行為の具体例
占有離脱物横領罪には、主に以下のようなケースに成立します。
- おつりを多く渡され、後日そのことに気がついたものの、返しに行かず使ってしまった
- 落とし物を拾って自分のものにした
- 何日も道端に放置されていた自転車を自分で使った
一見すると軽い行動でも立派な犯罪となるので、注意しましょう。
占有離脱物横領罪の法定刑
占有離脱物横領罪の法定刑は、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料です。
占有離脱物横領罪の時効
占有離脱物横領罪の公訴時効の期間は「3年」と定められています。
つまり、占有離脱物横領がおこなわれてから3年が経過すると、刑事責任を問われなくなります。
占有離脱物横領罪と類似・関連する罪との違い
ここでは、占有離脱物横領罪と類似・関連する犯罪についておさえておきましょう。
占有離脱物横領罪と単純横領罪・業務上横領罪・遺失物等横領罪の違いは?
そもそも横領罪には、以下の3類型があります。
- 単純横領罪
- 業務上横領罪
- 占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪)
いずれも横領行為が構成要件となる点が共通しますが、犯罪の成立要件がそれぞれ異なります。
以下では、類似する3つの罪について、主な違いを簡単にまとめました。
| 犯罪類型 | 成立するケース | 具体例 |
| 単純横領罪 | 他人から預かった物を自分の物にする | 知人から預かった財布を自分のものにした |
| 業務上横領罪 | 仕事を通じて預かった物を勝手に使用する | 経理担当者が会社のお金を自分の口座に移した |
| 占有離脱物横領罪 | 落とし物や置き忘れられた物を自分のものにする | 道に落ちていた財布を自分のものにした |
占有離脱物横領罪と窃盗罪の違いは?
占有離脱物横領罪と窃盗罪は、いずれも財産権を侵害するという点が共通しますが、犯罪の成立要件が異なります。
以下、それぞれの主な違いを簡単にまとめました。
| 犯罪類型 | 成立するケース | 具体例 |
| 窃盗罪 | 他人が占有している物を奪う | 他人のカバンから勝手に財布を抜き取った |
| 占有離脱物横領罪 | 落とし物や置き忘れられた物を自分のものにする | 道に落ちていた財布を自分のものにした |
占有離脱物横領罪の刑罰相場は?初犯でも実刑になる?
占有離脱物横領罪で逮捕された場合、警察官が厳重注意や訓戒などをおこなって事件を終了させる「微罪処分」や「不起訴処分」となるのが一般的です。
仮に起訴されても、10万円以下の罰金刑で終わることがほとんどです。
ただし、同種の犯罪を何度も繰り返している場合や、反省の意思が見られない場合には、懲役刑が科される可能性があります。
占有離脱物横領罪で捕まったらどうすればいい?
占有離脱物横領罪で捕まってしまった場合には、できるだけ不起訴処分や刑罰の軽減を目指しましょう。
そのためには、速やかに適切な対応を取ることが重要です。
ここからは、占有離脱物横領罪で逮捕されたときに取るべき対応について紹介します。
横領物を被害者に返し、示談を成立させる
占有離脱物横領で逮捕された場合、横領物を返還・弁償したうえで、できるだけ早く被害者と示談を結ぶようにしましょう。
検察官は、事件を起訴するか判断するにあたって加害者の反省の態度や再犯の可能性、被害者の被害感情などを考慮します。
そして、示談が成立していれば、被害者の被害感情がある程度弱まったと判断されやすいので、不起訴処分となる可能性が高まります。
仮に起訴されてしまった場合でも、示談が成立していれば、刑事裁判において被告人に有利な事情として考慮される可能性が高いです。
被害者と示談を成立させるため、弁護士に相談・依頼する
被害者との示談成立を目指すなら、いち早く弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
なぜなら、加害者が直接被害者との示談を進めようとしても、被害者の連絡先がわからず、交渉をスタートすることすらできないケースも多く存在するからです。
加害者本人が警察や検察に連絡を聞いても、個人情報保護の観点や被害者感情への配慮から、直接連絡先を伝えてもらえることはほとんどありません。
そこで重要になるのが、弁護士への相談・依頼です。
弁護士であれば、警察や検察を通じて被害者の連絡先を照会し、加害者本人に代わって交渉をおこなえます。
弁護士が間に入ることで、被害者も安心して示談に応じてくれやすくなる点も大きなメリットです。
占有離脱物横領罪の示談金相場はどのくらい?
占有離脱物横領罪の示談金相場は、原則として横領物の「時価」と同額になることが一般的です。
そのため、新品で購入したときの価格ではなく、実際に横領された時点での価値に基づく金額が基準になります。
犯人が横領物を所持している場合は、そのまま返還すれば示談が成立することが多いです。
ただし、横領物に「個人的に強い思い入れがあった」などの事情がある場合は、感情的損害が生じたとして、示談金に慰謝料が加算されることもあります。
占有離脱物横領罪の裁判例
ここでは、占有離脱物横領罪に関する裁判例をまとめました。
自身のケースと似たような判例がないか、チェックしてみてください。
被害者が置き忘れた財布を持ち去った事件の裁判例
本件は、スロット店で隣の客が置き忘れた財布を持ち去ったとして、被告人が占有離脱物横領罪に問われた事例です。
被告人には過去に2度の前科があり、1度目は窃盗罪により懲役1年6ヵ月・執行猶予3年、2度目は窃盗および建造物侵入により懲役1年・執行猶予5年(保護観察付)を受けていました。
反省と更生の機会を与えられていたにもかかわらず、執行猶予期間中に再び犯行に及んだことが重く見られました。
被害者との間で示談は成立していたものの、裁判所は「実刑は避けられない」と判断し、懲役6ヵ月の実刑判決が下されました。
常習性が認められるとして、放置自転車の横領で執行猶予付きの有罪判決となった裁判例
本件において、被告人は過去に自転車の占有離脱物横領罪で懲役10ヵ月・執行猶予5年の判決を受けていたにもかかわらず、その猶予期間中に再び同様の犯行を4件繰り返しました。
いずれも他人が盗んで放置した自転車を届け出ずに持ち去ったもので、常習性が強いと判断されました。
ただし、被告人は70代半ばで、軽度の精神遅滞による判断能力の低下が認められており、犯行も短絡的で被害額も比較的軽微でした。
また、被告人の釈放後には養護老人ホームへの即時入所が予定されており、福祉機関や行政による支援体制も整っていると評価されました。
これらの事情を踏まえ、裁判所は被告人に懲役10ヵ月・執行猶予4年と保護観察処分を付ける判決を下しています。
放置自転車を無断使用し占有離脱物横領を問われたものの、結果的に無罪となった裁判例
本件において、当時51歳の被告人男性は、近くのトンネル管理室の軒下に放置されていた無施錠の自転車を2回にわたって無断で使用したとされ、占有離脱物横領の罪で逮捕されました。
その後、検察は被告人を起訴して、罰金10万円を求刑しました。
しかし、裁判所は、被告人が自転車を一時的に短時間・短距離のみ使用し、その都度元の場所に戻していた点に着目し、「自転車を自己の所有物のように扱ったとはいえず、一時的な利用にすぎない」として、被告人に無罪を言い渡しています。
占有離脱物横領罪についてよくある質問
ここでは、占有離脱物横領罪に関するよくある質問をまとめました。
似たような疑問をお持ちの方は、ぜひここで解消しておきましょう。
路上のゴミを持ち去って自分のものにしたら占有離脱物横領罪になる?
路上のゴミは所有権がないものとみなされるので、ゴミを持ち帰っても占有離脱物横領罪には該当しないのが原則です。
ただし、ゴミ捨て場に出されたものを勝手に持ち去る行為は、注意が必要です。
ゴミ捨て場には「自治体による回収」を前提としてゴミが出されており、その時点で自治体が占有しているものとみなされるので、ゴミの持ち去りが窃盗罪に該当する可能性があります。
また、自治体によっては、公共のごみ捨て場からごみを持ち去る行為が条例違反となる場合もあります。
ゴミだからといって、安易に持ち帰るのは控えましょう。
占有離脱物横領罪で警察は動かないの?
占有離脱物横領罪のような比較的軽微な犯罪でも、警察が介入するケースは多いです。
法務省が公表する政府統計によると、2024年には占有離脱物横領罪の約7割の案件が検挙に至っています。
【令和6年の占有離脱物横領罪の認知件数・検挙件数】
- 認知件数:14,345件
- 検挙件数:9,936件
- 検挙率:69.3%
【参考元】政府統計|法務省
たとえ短時間の使用でも、放置自転車を無断で使ったことで逮捕・起訴された事例もあります。
「ちょっと借りただけ」「捨てられていたから問題ない」と思っても、警察が動く可能性は十分あるので、甘くみてはいけません。
さいごに|占有離脱物横領罪の不安があれば弁護士に相談を!
有離脱物横領罪は、他人の占有を離れた物を無断で横領したときに成立する犯罪です。
逮捕されていても実刑判決が下されないことが多いですが、状況によっては実刑判決を受ける可能性があります。
実刑判決を回避するためには、できるだけ早く弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士は、相談者の立場や状況に応じて、被害者との示談交渉などを進めてくれます。
なお、ベンナビ刑事事件を使えば、(占有離脱物)横領罪を得意とする弁護士を簡単に探せます。
不安をひとりで抱えこまないためにも、まずは弁護士へ相談しましょう。
