「配偶者がうつ病になり、夫婦関係を続けることが難しい…」
「うつ病を理由に離婚できるのか知りたい」
このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、うつ病そのものを理由に必ず離婚できるわけではありませんが、一定の条件を満たせば離婚が認められる可能性はあります。
ただし、うつ病はデリケートな問題であり、法的な判断だけでなく、配慮や慎重な対応が求められるケースも少なくありません。
そこで本記事では、うつ病と離婚の関係についての基本知識をはじめ、離婚が認められるケースや注意点、手続きを進める際のポイントまでを、初めての方にもわかりやすく解説します。
後悔のない判断をするためにも、ぜひ最後まで参考にしてください。
うつ病を理由に離婚はできる?離婚手続きの種類による考え方の違い
まずは、配偶者のうつ病を理由に離婚できるのかについて、手続きごとの違いを整理していきましょう。
離婚は大きく「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3つに分けられ、それぞれで離婚が認められる基準が異なります。
特に、裁判に進んだ場合は判断基準が大きく変わるため、あらかじめ理解しておくことが大切です。
協議離婚・調停離婚ならお互いが合意できれば離婚可能
協議離婚や調停離婚の場合は、夫婦双方が離婚に合意していれば、理由に関係なく離婚することが可能です。
協議離婚は、夫婦間の話し合いによって成立する最も一般的な方法で、離婚届を提出することで手続きが完了します。
また、話し合いがまとまらない場合でも、家庭裁判所の調停を利用すれば、調停委員を介して合意形成を目指すことが可能です。
これらの方法では、法律で定められた離婚理由(法定離婚事由)がなくても問題ありません。
つまり、配偶者のうつ病をきっかけに「これ以上婚姻生活を続けるのが難しい」と双方が納得していれば、それだけで離婚は成立します。
そのため、できる限り円満に解決したい場合は、まず協議や調停による合意を目指すのが現実的な選択といえるでしょう。
裁判離婚では法定離婚事由に該当するかが争点に
一方で、裁判離婚となった場合は事情が大きく異なります。
裁判で離婚を認めてもらうためには、民法770条で定められた法定離婚事由に該当している必要があります。
したがって、単に「うつ病だから離婚したい」という理由だけでは、原則として離婚は認められません。
ここで重要なのは、2026年4月1日の民法改正によって、これまで民法第770条第1項第4号で規定されていた「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という条文が削除されている点です。
従来の民法では、うつ病であること=強度の精神病であり、それが回復の見込みがない場合に離婚を目指せましたが、現在ではうつ病であることが離婚事由になることはありません。
そのため、2026年4月以降にうつ病で離婚を目指す場合は、法定離婚事由の一つである「その他、婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかがポイントとなります。
つまり、配偶者のうつ病そのものではなく、「その影響によって夫婦関係がどの程度維持困難になっているか」が問われるようになるのです。
なお、実務上は別居期間の長さや生活状況、これまでの支援の有無なども含めて総合的に判断されます。
そのため、診断書だけでなく、日常生活の状況を示す記録や経緯を整理しておくことが重要です。
裁判離婚はハードルが高いため、できるだけ協議や調停の段階で解決を図ることが、現実的かつ負担の少ない進め方といえるでしょう。
うつ病で離婚をする際のポイント
うつ病を理由に裁判で離婚を認めてもらうのは、非常にハードルが高いものです。
しかし、うつ病の配偶者を支えるのは心身ともに大きな負担となり、早くこの状況から抜け出したい方もいるでしょう。
ここからは、うつ病で離婚をする際に押さえておくべきポイントを解説します。
離婚の手続きをする前に十分な治療をおこなう
まずは離婚の手続きをする前に、十分な治療をおこなうことです。
そもそも、配偶者がうつ病になったからといって、即座に離婚できるわけではありません。
うつ病の配偶者を献身的にサポートしたけれど、もう継続できないといった場合に初めて離婚が認められます。
そのため、まずは可能な限り配偶者の治療を試み、回復できるようサポートしましょう。
その際、通院を証明できるものや治療経過の資料などを残しておくと、裁判になった場合の証拠になります。
離婚手続きの前に別居をするのもひとつの手
協議や調停で離婚を進める前に、別居しておくのもひとつの手です。
うつ病である配偶者のサポートをする側は、精神的にも身体的にも疲弊します。
そのような状況では、冷静な判断はできません。
ご自身が限界を迎える前に、一旦配偶者と距離をおくのも有効です。
ただし、配偶者の病状の悪化を防ぐために、別居前には担当医に相談するなどの配慮も必要です。
別居が長期化すれば裁判でも離婚が認められやすくなる
別居期間が長期化すれば、裁判でも離婚が認められやすくなります。
長期間の別居は、法定離婚事由のひとつ、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性があります。
一般的には別居期間が3年~5年以上あれば長期間だとみなされ、離婚が認められやすいといえるでしょう。
話し合いで離婚の合意ができそうにないなら証拠を確保しておく
話し合いで離婚の合意ができなければ、裁判手続きに進む可能性があります。
裁判での離婚も想定して、証拠を確保しておきましょう。
証拠の具体例は、以下のとおりです。
- うつ病の診断書
- 通院履歴
- うつ病の回復見込みがないという意思の意見書
- うつ病を患っている配偶者の言動を収めた音声や録画
- 介護日記
そのほか、どのような証拠を用意すべきなのかは、早めに弁護士へ相談して確認しておきましょう。
うつ病を理由とした離婚を検討するべきケース
家族として配偶者を支えるべきでは?離婚するのは薄情なのでは?と、離婚を悩んでいる方もいるでしょう。
しかし、ご自身や家族のことを考えても、離婚をしたほうがよい場合もあります。
ここからは、どのような状況であればうつ病を理由に離婚を検討するべきなのかを解説します。
生活が経済的に苦しくなっている
うつ病が理由で生活が経済的に苦しくなっているのであれば、離婚を検討するべきです。
たとえば、うつ病を患った配偶者が仕事を辞めた場合、もう一方の配偶者の収入だけでは生活が成り立たなくなるケースもあります。
また、配偶者の看病で思うように働けず、収入が落ちる方もいるでしょう。
このような状態が長期間続けば、家計は次第に逼迫し、いずれ生活が立ち行かなくなるおそれがあります。
経済的に生活の維持が難しいと感じたら、早い段階で離婚を検討しましょう。
うつ病でない側の精神状態も限界をむかえている
配偶者と一緒に生活する中で、うつ病ではない側の精神状態が限界に近づいているなら、離婚を検討すべきです。
うつ病の配偶者に常に気を配り続けることで、自分自身まで追い詰められてしまうケースもあります。
心に余裕がなくなると、冷静な判断ができなくなるでしょう。
精神的に限界を感じ、これ以上一緒に過ごすのは難しいと感じたら、離婚の選択肢も考えることが大切です。
子どもに悪影響が生じている
配偶者のうつ病が子どもに悪影響を与えているなら、離婚を検討するべきです。
うつ病で情緒が不安定な親の姿を日常的に見ていると、子どもは無意識のうちに気を遣い、強いストレスを抱える可能性があります。
親に甘えられない状態が続けば、子どもの心の安定や健全な成長に影響を及ぼしかねません。
配偶者のうつ病が子どもの負担になっていると感じた場合は、子どもの将来を最優先に考えて離婚を検討しましょう。
夫婦で一緒に暮らすことが苦痛となっている
夫婦で一緒に暮らすことが苦痛となっているなら、離婚を検討するべきです。
うつ病の配偶者の言動に振り回され、ご自身の思うような生活ができない可能性もあります。
努力はしたもののもう一緒にいること自体が苦痛になっているなら、お互いのためにも離婚したほうがよいでしょう。
うつ病の離婚条件について把握しておくべきポイント
離婚では、慰謝料や親権などさまざまな条件を取り決めることになります。
では配偶者のうつ病で離婚する場合、離婚条件はどのように決めていくのでしょうか。
ここからは、うつ病の配偶者と離婚する際の離婚条件について、把握しておくべきポイントを解説します。
うつ病のみが理由の慰謝料請求は難しい
まず、うつ病のみを理由に離婚する場合、慰謝料の請求は難しいと思っておいてください。
離婚で慰謝料請求できるのは、配偶者に不法行為があった場合です。
不法行為の具体例には、不倫やDV、モラハラ、理由のない別居や性交渉の拒否、ギャンブル依存症などが挙げられます。
うつ病の罹患は本人の意思ではどうにもできず、やむを得ないものです。
夫婦の平穏な生活を自発的に侵害したとはいえず、不法行為には該当しません。
そのため、慰謝料は請求できないのです。
うつ病であるというのみで親権に大きな影響はない
うつ病に罹患しているだけでは、親権に大きな影響はありません。
親権は、子の福祉を最優先にして決めるべきものです。
子の生育環境の維持や子の成長への影響、子どもの意思などが考慮されるため、うつ病だからといって絶対に親権が取れないわけではありません。
うつ病の程度が軽度で、これまでの監護実績がしっかりある場合は、うつ病であっても親権者になれる可能性があります。
うつ病でも財産分与は1/2ずつが基本
配偶者がうつ病でも、財産分与は2分の1ずつが基本です。
財産分与とは、婚姻期間中に築いた夫婦の財産を半分ずつ分けることです。
相手の病気の有無にかかわらず、分与割合は原則2分の1ずつになります。
うつ病の相手に対する養育費は相手が支払える範囲で可能
うつ病の相手には養育費を請求できないと考えている方もいるでしょう。
しかし、相手が支払える範囲であれば、養育費の請求は可能です。
養育費の支払いは、親の義務です。
うつ病だからといって養育費の支払いを拒否する理由にはなりません。
ただし、相手の生活が維持できなくなるほどの金額は請求できません。
そのため、療養のために仕事を辞めていたりセーブしていたりする場合は、思うような養育費を獲得できない可能性もあります。
相手の収入に応じて支払える範囲の養育費を請求するべきですが、適正額に関しては弁護士への相談がおすすめです。
うつ病を理由とした離婚率はどのくらい?
では、うつ病を理由とした離婚率はどのくらいなのでしょうか。
以下の表は、裁判所に離婚関係事件を申し立てた動機をまとめたものです。
■第19表 婚姻関係事件数―申立ての動機別
| 夫 | 妻 | |||
|---|---|---|---|---|
| 人数 | 割合 | 人数 | 割合 | |
| 合計 | 15,396 | 100.0% | 43,033 | 100.0% |
| 性格が合わない | 9,233 | 60.0% | 16,503 | 38.3% |
| 異性関係 | 1,820 | 11.8% | 5,743 | 13.3% |
| 暴力を振るう | 1,441 | 9.4% | 7,690 | 17.9% |
| 酒を飲み過ぎる | 377 | 2.4% | 2,479 | 5.8% |
| 性的不調和 | 1,622 | 10.5% | 2,862 | 6.7% |
| 浪費する | 1,764 | 11.5% | 3,662 | 8.5% |
| 病気 | 629 | 4.1% | 948 | 2.2% |
【参照】令和6年 司法統計年報 家事編
離婚事件を申し立てた動機に「病気」を挙げているのは、男性で4.1%、女性で2.2%です。
ここで挙げられている「病気」とは、うつ病だけに限りませんが、さまざまな動機がある中で病気を理由に離婚したいと考える夫婦はかなり少数派であることがわかります。
うつ病を理由とした離婚で弁護士に相談・依頼すべき理由
うつ病を理由とした離婚は可能ですが、交渉や裁判手続きをスムーズに進めるためにも弁護士への相談・依頼がおすすめです。
ここからは、うつ病が理由で離婚したい場合に、弁護士に相談・依頼すべき理由について解説します。
相手との交渉を代行してもらえる
弁護士に依頼すれば、相手との交渉を代行してもらえます。
うつ病を患っている相手方と直接話したくない方もいるでしょう。
間に弁護士が入ることで、ストレスを減らして話し合いを進められるのはメリットです。
そもそも相手が話し合いに応じてくれない、直接顔を合わせると言いたいことが言えないなどの状況であれば、弁護士へ依頼したほうがよいでしょう。
有効な証拠集めなど法的な手続きに関するサポートをしてもらえる
弁護士に依頼すれば、有効な証拠集めなど法的な手続きに関するサポートをしてもらえます。
裁判離婚になった場合、法定離婚事由に該当する証拠が必要です。
自己判断で証拠を取捨選択するよりも、法律の専門家に指示を仰いだ方が、有利な証拠を集められます。
うつ病だけでの裁判離婚は、難しいものです。
他にどんな要素が必要か、どんな証拠を用意すればよいのか、早めに弁護士に相談しておくことで手続きをスムーズに進められるでしょう。
より有利な条件で離婚を成立させやすくなる
弁護士に相談すれば、より有利な条件で離婚を成立させやすくなります。
離婚では財産分与や親権、養育費などの諸条件を決めなければなりません。
もし相手の財産がわからなくても、弁護士なら弁護士会照会で財産の調査を試みることが調査できます。
また、適正な婚姻費用や養育費を算定し相手に請求できるので、安心感もあるでしょう。
親権など譲れない離婚条件があれば、弁護士は可能な限り手を尽くして対応してくれるはずです。
結果として有利な条件で離婚できる可能性が高まります。
さいごに|うつ病を原因とした離婚についてはなるべく早く弁護士に相談を!
配偶者のうつ病を理由とする離婚は、話し合いによる協議離婚であれば可能です。
しかし裁判に発展した場合、うつ病のみを理由とした離婚請求は原則認められません。
また、不倫やモラハラといった不法行為がなければ、慰謝料請求は難しいのが一般的です。
さらに親権や財産分与、養育費についても、うつ病が直接影響することはなく、通常の離婚と同様に判断されます。
配偶者のうつ病のサポートに疲れ、離婚を考えているのであれば、できるだけ早い段階で弁護士に相談しましょう。
弁護士に依頼すれば、相手との交渉や裁判手続きを代理で進めてもらえるほか、必要な証拠の集め方や、適正な婚姻費用・養育費についても専門的なアドバイスを受けられます。
精神的な負担が限界に達する前に早めに専門家へ相談すれば、より良い条件での離婚につながるでしょう。
