街中で何気なく声をかけた相手から「警察に言うから!」と返され、驚きや不安を感じた経験はありませんか。
ナンパは気軽な出会いを求める行為ですが、その態度や言動によっては、相手に「怖い」「しつこい」と思われ、警察に通報されるケースも少なくありません。
実際に通報された場合、「本当に逮捕されるのか?」「前科がつく可能性はあるのか?」「どんな罪に問われるのか?」と不安に感じる方も多いはずです。
本記事では、ナンパで通報されることで問われる可能性のある罪の種類や、逮捕された場合に生じるリスクを丁寧に解説します。
さらに、通報されたときに取るべき正しい対処法や、弁護士に相談するメリットについても詳しく紹介します。
ナンパをきっかけに人生を大きく狂わせないためにも、法律上のリスクや正しい備えを知っておきましょう。
ナンパの仕方によっては、通報されることもありえる
結論から言えば、「ナンパ=即違法」というわけではありません。
路上や駅前などで見知らぬ異性に声をかける行為自体は、法的に直ちに禁止されているものではなく、通常の会話の範囲であれば処罰の対象にはなりません。
しかし、相手の反応を無視してしつこく誘い続けたり、突然身体に触れたりする行為は、状況によっては警察に通報され、場合によっては現行犯逮捕に至る可能性があります。
たとえば、次のような行動は非常に危険です。
- 相手が立ち去ろうとしているのに進路をふさぐ
- 「なんで無視するんだ」と言って追いすがる
- 拒否されているのに強引に誘う
- 肩や腕などに勝手に触れる
これらの行為は、相手に恐怖感や不快感を与えるものであり、たとえそのような意図がなかったとしても、相手が「怖い」と感じれば通報される理由になり得ます。
さらに最近では、「不審者情報」としてSNSや掲示板、自治体の防犯メールに投稿される事例も見られます。
そうなれば、警察による職務質問を受けるだけでなく、社会的信用の失墜にもつながりかねません。
ナンパで通報され、問われる可能性がある罪の種類
ナンパ自体は違法ではありませんが、やり方次第では複数の刑罰法規に触れるおそれがあります。
以下では、実際にナンパ行為が警察に通報された際に、成立する可能性がある罪について具体的に解説します。
軽犯罪法 | 相手の前に立ちふさがったりしつこくつきまったりした場合
軽犯罪法第1条28号では、正当な理由なく「他人の進路に立ちふさがる」「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう」といった行為を禁止しています。
そして、ナンパを目的として何度も声をかけたり、無視されても立ちはだかって誘いを続けたりするのは、これらに該当するおそれのある行為です。
このような場合、「拘留(1日以上30日未満)」または「科料(1,000円以上1万円未満)」が科される可能性があります。
迷惑防止条例 | さまざまな迷惑行為を禁止
各都道府県が定める迷惑防止条例では、正当な理由なく人につきまとったり、執拗に誘ったりする行為を禁止しています。
ナンパの内容や態度が悪質であると判断されれば、この条例違反に該当することがあります。
たとえば、東京都の迷惑防止条例に基づく罰則は、以下のとおりです。
| 状況 | 法定刑(罰則) |
|---|---|
| 初犯 | 6月以下の拘禁刑 または 50万円以下の罰金 |
| 常習犯 | 1年以下の拘禁刑 または 100万円以下の罰金 |
脅迫罪・強要罪 | 相手を脅したり、暴力をほのめかしたりした場合
ナンパの際に「無視したら痛い目に遭うぞ」などと相手の身体等に害を加えることを告げた場合は、脅迫罪に該当するおそれがあります。
また、「話を聞け」「ついてこい」といった威圧的な命令口調だけでなく、腕を強くつかんだりする行為が伴った場合は、強要罪に問われる可能性があります。
脅迫罪・強要罪における法定刑は、それぞれ以下のとおりです。
| 罪名 | 法定刑 |
|---|---|
| 脅迫罪 | 2年以下の拘禁刑 または 30万円以下の罰金 |
| 強要罪 | 3年以下の拘禁刑(罰金刑の規定なし) |
言葉だけでも、相手が恐怖を感じた場合には脅迫罪が成立する可能性があります。
ナンパの場面で威圧的な態度をとることは、重大な法的リスクにつながるおそれがあると認識しておく必要があります。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪 | 合意なくわいせつな行為や性交に及んだ場合
ナンパがきっかけで性的な行為に及んだ場合、同意の有無や状況によっては非常に重い処罰が科されるおそれがあります。
具体的には、相手の明確な同意がない状態でわいせつな行為や性行為をした場合、令和5年の刑法改正によって新設された「不同意わいせつ罪」又は「不同意性交等罪」が成立する可能性があります。
| 罪名 | 法定刑 |
|---|---|
| 不同意わいせつ罪 | 6ヵ月以上10年以下の拘禁刑 |
| 不同意性交等罪 | 5年以上の有期拘禁刑(罰金刑の規定なし) |
とくに「不同意性交等罪」は、法定刑が5年以上の拘禁刑であるため、法定刑を減刑するべき特別な事情がなければ執行猶予のない実刑判決となる重大な犯罪です。
仮に、相手が拒否していないと受け取れる状況であったとしても、飲酒や精神的な圧力下など、不同意の意思を形成又は表明することが困難な状況にさせたり、そのような状況に乗じてわいせつ行為や性交行為等を行った場合、これらの犯罪が成立する可能性があります。
また、相手が16歳未満の場合は、わいせつ行為や性交行為等に対して同意をする能力が十分でないとの観点から、形式的に同意があったとしてもこれらの犯罪が成立する可能性があります。
初対面の相手と関係を持つ際には、こうしたリスクを正しく理解しておきましょう。
青少年保護育成条例 | 青少年とみだらな行為に及ぶなどした場合
ナンパした相手が18歳未満の未成年者だった場合、各都道府県が定める青少年健全育成条例に違反するおそれがあります。
とくに未成年に対する「みだらな行為」や16歳未満の青少年の「深夜の連れ回し」などは、条例によって明確に禁止されており、罰則も重くなるため注意しましょう。
以下は東京都の場合の、主な違反行為と法定刑です。
| 違反行為 | 法定刑 |
|---|---|
| みだらな行為 | 2年以下の拘禁刑 または 100万円以下の罰金 |
| 深夜の連れ出し・同伴(23時〜翌4時) | 30万円以下の罰金 |
なお、「みだらな行為」には性的接触、性交などが含まれ、たとえ本人の同意があっても処罰対象となります。
また、青少年が16歳未満の場合、保護者の同意や正当な理由なく、深夜帯に連れ出しただけでも条例違反となるため、軽率な行動は厳禁です。
未成年かどうか見た目で判断することは極めて危険であり、トラブルに発展すれば逮捕・実名報道・社会的信用の喪失という重大な結果を招きかねません。
ナンパで通報され逮捕されてしまったらどうなる?考えられる主なリスク
ナンパが原因で警察に通報され、逮捕にまで至ってしまった場合、その後の人生に大きな影響を及ぼす深刻なリスクが伴います。
ここでは、逮捕後に想定される代表的なリスクを4つに分けて解説します。
起訴されなくても最大で23日間は身柄を拘束されてしまう可能性がある
警察に逮捕されると、最大72時間は警察署の留置場に拘束されます。
その後、検察官が勾留を請求し、裁判所が認めた場合は10日間の勾留、最大で10日間の延長が可能です。
つまり、起訴されていなくても最大23日間、社会から隔離された状態になるということです。
この間は職場や学校に行くこともできず、直接連絡ができないまま長期間拘束されることになります。
会社から解雇されたり学校を退学させられたりする可能性がある
長期間の勾留による無断欠勤や、ナンパをきっかけとした事件報道により、勤務先に事件が発覚するケースは少なくありません。
そして、たとえ刑事責任が確定していなくても、就業規則に抵触したことを理由に懲戒解雇や内定取消などの処分が下される可能性はゼロではありません。
学生の場合も同様で、事件関与を理由に退学処分を受ける例もあります。
とくに、未成年者への性犯罪が疑われるケースでは、校内外からの非難が集中し、復学が事実上困難になることも考えられます。
新聞やテレビなどで報道されてしまう可能性がある
ナンパがエスカレートして性犯罪や未成年者への条例違反に該当した場合、実名報道される可能性もあります。
もしも報道された場合、自身の名前や写真がインターネット上に半永久的に残ることになり、就職活動や再就職の妨げになるばかりか、家族や知人の生活にも悪影響を及ぼします。
不同意性交等罪や青少年健全育成条例違反などは世間の注目を集めやすく、報道されるリスクが高い犯罪であることを認識すべきでしょう。
前科がつくと仕事への悪影響が出たり海外渡航が制限されたりする可能性がある
起訴されて有罪が確定すると、軽微な罰でも「前科」がつきます。
前科は企業の採用や資格取得・更新において不利に働くことが多く、社会復帰にあたって大きなハンデとなります。
また、前科の有無を理由に渡航先から入国を拒否されるケースもあり、今後の人生への影響ははかり知れません。
ナンパで通報されてしまったらどうする?
もしナンパが原因で通報され、警察に事情を聴かれた場合、その場の対応を誤ると、逮捕・勾留・起訴といった深刻な事態に発展するおそれがあります。
ここでは、トラブルを最小限に抑えるための3つのポイントを紹介します。
警察から事情を聴かれたら正直に答える
現場に警察が来た場合、まずは冷静に対応し、事実関係について正直に説明することが重要です。
「ナンパをしていた事実」があっても、違法行為に該当しない内容であれば、その点を丁寧に説明すれば逮捕されずに済む可能性は十分あります。
一方で、事実と異なる説明をしたり、逃げようとしたりすると、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれが高いと判断され、現行犯逮捕されるリスクが高まります。
警察官の指示には素直に従い、不用意に相手の悪口を言ったり、感情的に反論したりしないよう注意しましょう。
供述調書の内容に納得できないときは、絶対に署名・捺印をしない
逮捕後に警察署や検察庁で取り調べを受けると、「供述調書」が作成されます。
この調書は、後の刑事裁判で重要な証拠資料となるため、内容に誤りがあればそのまま不利な証拠として扱われるおそれがあります。
調書に署名・捺印する前には、必ず全文を読み、事実と異なる点があれば訂正を求めるようにしましょう。
警察や検察が訂正を認めず、そのまま署名を促してきた場合には、「弁護士に相談してから署名したい」と伝えるべきです。
トラブルに発展しそうなら弁護士への相談を検討する
ナンパした相手が「警察を呼ぶ」と言ったことでトラブルに発展しそうな場合、弁護士への早期相談を検討することをおすすめします。
なぜなら、トラブルの初期段階で適切な法的アドバイスを受けることで、不要な誤解や不当な処分を避けられる可能性があるからです。
とくに、性犯罪や未成年関係の通報が疑われる場合は、自己判断で行動することのリスクが高いので、弁護士の判断を仰ぐのが賢明です。
また、万が一逮捕された場合でも、弁護士に速やかに連絡することで、釈放の交渉や今後の対応を任せることができます。
ナンパで通報・逮捕されたとき、弁護士に相談・依頼するメリット
ナンパに関するトラブルが発生し、警察への通報や逮捕にまで至った場合、できるだけ早い段階で弁護士に相談・依頼することが重要です。
ここでは、弁護士に依頼することで得られる代表的なメリットを5つ紹介します。
逮捕後、速やかに面会してアドバイスしてもらえる
逮捕された場合、自分の意思で誰かに連絡することはできませんが、弁護士だけは留置場に接見(面会)することが認められています。
逮捕から早期に接見を受けることで、黙秘権や供述の注意点などをその場でアドバイスしてもらえるため、不利な供述や不用意な署名を避けることが可能です。
長期的な身柄拘束を避けられる可能性が高まる
弁護士は、勾留決定や勾留延長決定に対して裁判所に「準抗告」をするなど異議を申し立て、早期釈放のための法的手続きをおこなうことができます。
もし逮捕後に長期勾留されると、会社や学校に大きな影響を及ぼすことになりかねません。
しかし、弁護士が迅速に動けば、これを未然に防げる可能性があります。
会社を解雇されたり学校を退学させられたりするのを防ぐための活動をしてくれる
弁護士は、逮捕や事件によって生じる社会的な信用の失墜や経済的ダメージを最小限にとどめるための対応もおこないます。
たとえば、勾留中に無断欠勤が続くことで懲戒解雇や退学処分が検討されているような場合、弁護士が会社や学校と連絡を取り、本人の状況や反省の意思を説明することによって、処分を思いとどまってもらえる可能性があります。
場合によっては、被害者や関係者との橋渡し役となって誠意ある対応をサポートし、被害者感情の軟化や和解への道筋をつけることも可能です。
起訴を避けられる可能性が高まる
逮捕・勾留された場合でも、必ずしも起訴されるとは限りません。
弁護士が被害者との示談交渉を成立させたり、検察官に対して不起訴処分を求める意見書を提出したりすることで、起訴を回避できる可能性があります。
とくに初犯や軽微な事案であれば、弁護士の活動次第で「不起訴=前科なし」の結果を導けるケースも少なくありません。
精神的な支えになってもらえる
突然の通報や逮捕という非日常的な状況の中で、弁護士という頼れる存在がいること自体が大きな安心につながるのもメリットです。
弁護士は法律の専門家として、冷静かつ現実的なアドバイスを提供し、本人や家族の不安を和らげてくれます。
感情的に混乱してしまいがちな場面でも、法的視点から最善の選択肢を提示してくれるので、早めに依頼するのがよいでしょう。
さいごに | ナンパで通報されてしまったら弁護士に相談を!
ナンパで通報されると、状況によっては軽犯罪法違反や迷惑防止条例違反等さまざまな犯罪に問われる可能性があり、場合によっては逮捕・勾留・前科といった深刻な結果を招くおそれがあります。
また、不用意な言動が誤解を招き、刑事事件に発展するケースもあります。
そうした事態を避けるためにも、早い段階で弁護士に相談することが重要です。
弁護士であれば、警察対応のアドバイスや、被害者との示談交渉、会社や学校への対応などを幅広く支援してくれます。
とくに初めて警察の取調べを受ける場合、自分だけで状況を判断するのは難しく、対応を誤れば不利な結果を招く可能性もあります。
弁護士は、そうしたリスクを回避するための実務的なサポートを提供してくれる存在です。
通報された際は、一人で抱え込まず、落ち着いて弁護士に相談することをおすすめします。
※本記事は2025年11月時点の法令に基づいて執筆されています。法改正により内容が変更される可能性があります。
