すでに退職後でも、残業代を請求することは可能です。
退職したからといって残業代の請求権が消滅するわけではなく、会社側には支払う義務があります。
ただし、残業代請求については時効が定められているほか、会社に対して請求する際は残業したことを示す証拠などの準備も必要となります。
できるだけトラブルなくスムーズに回収するためにも、本記事で残業代請求のポイントを押さえておきましょう。
本記事では、退職後の残業代請求の流れや必要な証拠、残業代請求の時効期間や、残業代請求でおすすめの相談窓口などを解説します。
【結論】退職後でも残業代請求は可能
冒頭でも触れたとおり、退職後でも残業代請求は可能です。
ここでは、退職後でも残業代請求できる主な理由について解説します。
退職後でも残業代請求できる理由
労働基準法第37条1項は、他の労働基準法の条文や割増賃金令(労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)とあわせて読むと、「1日8時間、週40時間を超える労働に対しては割増賃金を支払う義務がある」ということが定められています。
残業が発生した場合、従業員は会社に対して残業代を請求できる権利があり、退職したからといってただちに請求権が消滅するわけではありません。
自己都合退職であろうと会社都合退職であろうと残業代は請求できますので、諦めずに請求しましょう。
ただし、残業代請求には時効が定められているため、退職後はなるべく速やかに請求手続きを進める必要があります。
残業代請求の時効については「退職後に残業代請求する際の時効」で後述します。
未払い残業代が支払われた件数・支払額
厚生労働省が公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)を公表します」によると、2025年における全国の賃金の未払い状況・支払い状況は以下のとおりです。
上記のとおり、賃金の未払いがあった人は18万5,197人、未払い総額は172億1,000万円にものぼります。
労働基準監督署による監督指導がおこなわれたことで、結果的に全体の98%にあたる18万1,177人は支払いを受けることができ、支払い総額は162億1,000万円となっています。
残業代未払いのような会社とのトラブルは、自分1人では解決が難しいこともありますが、労働基準監督署などの窓口に相談することで事態が改善する可能性があります。
退職後の残業代請求の流れ
退職後に残業代請求をおこなう場合、基本的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 未払い残業代の証拠集め
- 弁護士への相談・依頼
- 未払い残業代の計算
- 内容証明郵便の作成・送付
- 労働審判の申立て
- 訴訟の提起
ここでは、それぞれの手続き方法について解説します。
1.未払い残業代の証拠集め
未払い残業代を請求する際は、まず証拠を集めておくことが大切です。
これまでの残業状況などを示す証拠がなければ、会社側が反論してきて請求手続きが難航したり、裁判で争っても主張が認められなかったりするおそれがあります。
ただし、すでに退職している場合は証拠収集に苦労することも多く、自力での対応が難しそうであれば弁護士にサポートを依頼しましょう。
なお、具体的にどのような証拠が有効なのか・無効なのかは「退職後の残業代請求で必要な証拠」で後述します。
2.弁護士への相談・依頼
退職後に未払い残業代を請求する場合、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士なら、証拠の集め方や請求手続きの進め方などをアドバイスしてくれるだけでなく、代理人として会社とのやり取りや裁判手続きなどを一任することも可能です。
現在では初回相談無料の法律事務所も多くあるため、「とりあえず弁護士の話を聞いてみたい」「依頼するかどうか迷っている」という方も、一度気軽に相談してみましょう。
当サイト「ベンナビ労働問題」では、残業代請求などの労働問題が得意な全国の弁護士を掲載しています。
お住まいの地域から対応可能な弁護士を一括検索できますので、残業代未払いのトラブルで悩んでいる方はぜひご利用ください。
3.未払い残業代の計算
未払い残業代の請求にあたっては、未払い額も計算しておく必要があります。
計算する際は、労働時間などによって以下のような割増率が適用されます。
| 労働時間 | 時間 | 割増率 |
|---|---|---|
| 時間外労働(法内残業) ※就業規則上の所定労働時間は超えているが、法定労働時間は超えていない |
1日8時間、週40時間以内 | 1倍(割増なし) |
| 時間外労働(法外残業) ※法定労働時間を超える残業 |
1日8時間、週40時間超 | 1.25倍 |
| 1ヵ月に60時間超 | 月60時間を超える時間外労働 | 1.5倍 |
| 法定休日労働 | 法定休日の労働時間 | 1.35倍 |
| 深夜労働 | 22時00分~5時00分の労働時間 | 1.25倍 |
| 時間外労働(限度時間内)+深夜残業 | 時間外労働+深夜労働の時間 | 1.5倍 |
| 法定休日労働+深夜労働 | 休日労働+深夜労働の時間 | 1.6倍 |
ただし、素人では正確な金額を算出するのが難しい場合もあります。
ベンナビ労働問題の「残業代計算ツール」なら、1ヵ月あたりの残業時間や支払い状況などの項目を選択するだけで残業代の獲得見込み額がわかります。
計算結果からは、お住まいの地域で相談可能な弁護士なども確認でき、残業代請求を考えている方はぜひご利用ください。
4.内容証明郵便の作成・送付
残業代請求の準備が整ったら、会社に対して支払いを求めます。
すでに退職している場合、まずは未払い残業代の支払いを求める旨を記載した「内容証明郵便」を送付して請求するのが一般的です。
内容証明郵便とは「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスのことです。
内容証明郵便を送付することで、会社に対して請求の本気度を見せることができたり、裁判に発展した際は有効な証拠として働いたりするなどのメリットがあります。
5.労働審判の申立て
会社側が請求に応じない場合は、裁判所にて労働審判を申し立てましょう。
労働審判とは、原則3回以内の期日で迅速に問題解決を目指す裁判手続きのことです。
労働審判官1名と労働審判委員2名からなる「労働審判委員会」の仲介のもと、裁判所にて話し合いをおこない、状況によっては調停案の提示や説得を受けたりすることもあります。
第1回では合意できなかった場合、第2回期日・第3回期日が開かれて話し合いが続き、双方が合意できれば和解成立となって手続き終了となります。
双方が合意できなかった場合、労働審判委員会によって審判が言い渡されますが、審判内容に納得いかない場合は異議申し立てすることも可能です。
6.訴訟の提起
労働審判でも解決できない場合、最終的には裁判に移行することになります。
裁判では、双方が出廷して残業代の支払いに関して主張立証をおこない、十分に尽くされた時点で裁判官による判決または和解によって決着が付くことになります。
労働審判に比べると手続きが複雑で手間がかかり、双方の主張が対立して揉めている場合などは終結までに1年以上かかることもあります。
基本的に素人だけでは適切な対応が難しいため、弁護士によるサポートが必要不可欠です。
退職後の残業代請求で必要な証拠
未払い残業代を請求する際は、これまでの残業状況などを示す証拠が必要です。
ここでは、残業代請求で有効な証拠・無効な証拠や、証拠が集まらない場合の対処法などを解説します。
残業代請求で有効な証拠・無効になる証拠
未払い残業代を請求する場合、主に以下のようなものが証拠として有効です。
まだ在職中であれば、退職する前になるべく多くの証拠を確保しておきましょう。
- 契約内容を示すもの:労働契約書・雇用通知書・就業規則など
- 残業した事実を示すもの:タイムカード・出勤表・会社の入館証の記録・仕事用PCのログイン・ログオフ情報など
- 残業内容を示すもの:仕事用スケジュールアプリ・カレンダーなど
- 会社からの支給額を示すもの:給与明細・源泉徴収票など
一方、証拠として認められにくいものとしては、以下のようなものがあります。
- 残業時間を記録したメモ
- 私的なメールやLINEでのやり取りの記録 など
証拠が集まらない場合の対処法
すでに退職している場合、なかなか有効な証拠が集められないおそれがあります。
自分で会社に連絡して提出を求めるという方法もありますが、すんなり応じてくれないケースも多いため、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士なら、訴訟を提起した上で、文書提出命令の手続きをすることができます。
裁判所にて文書提出命令の申し立てをおこなえば、裁判所が会社に対して証拠文書を提出するよう求めてくれるため、残業代請求で必要な証拠を確保できる可能性があります(民事訴訟法第221条)。
それでも会社側が応じないこともありますが、その場合には裁判所側が「残業代未払いに関する従業員の主張は真実である」と判断してくれる可能性が高まります。
退職後に残業代請求する際の時効
退職後でも未払い残業代は請求可能ですが、請求権には時効が定められています。
残業代請求の時効は「残業代が支払われる給料日から3年」で、時効期間を過ぎて時効が成立すると請求権は消滅します。
なお、未払い残業代の支払いを求める旨を記載した内容証明郵便を送付すれば、1度だけ時効の完成が6ヵ月間猶予されます(民法第150条)。
ただし、あくまでも一時的な措置にすぎないため、催告後は猶予期間中に労働審判や訴訟提起などの請求手続きを進めることになります。
特に退職してから時間が経っている場合などは、時効が迫っている可能性があるため、なるべく速やかに手続きを進めましょう。
退職後の残業代請求に関する2つの相談窓口
残業代未払いで悩んでいるなら、自分1人で悩まずに相談することをおすすめします。
退職後の残業代請求に関する主な相談窓口としては、労働基準監督署や弁護士などがあります。
ここでは、各相談先の特徴やサポート内容などを解説します。
1.労働基準監督署|会社に対する指導を求めたい場合
労働基準監督署は、会社が労働関係法令を遵守しているか監督し、違反があれば是正勧告や行政指導をおこなう機関のことです。
未払い残業代のみならず、不当解雇・退職金トラブル・長時間労働などのさまざまな労働問題についても相談でき、場合によっては立ち入り調査がおこなわれたり、刑事事件化したりすることもあります。
特に「きちんと残業代を支払わない会社に対して指導してほしい」という場合は、労働基準監督署への相談が有効です。
注意点として、基本的に労働基準監督署では会社と労働者の間の個別の紛争には介入しないという立場をとっています。
したがって、十分な証拠が揃っておらず会社側の違法行為が不明確な場合は、相談しても動いてくれない可能性があります。
2.弁護士|残業代請求のアドバイスやサポートを受けたい場合
弁護士は、法律の専門家として問題解決に向けたアドバイスやサポートをしてくれます。
労働問題全般に対応しており、未払い残業代の計算方法・証拠の集め方・請求手続きの進め方など、状況に応じた適切なアドバイスが受けられます。
さらに、弁護士名義で内容証明郵便を作成・送付してくれたり、依頼者の代理人として労働審判や訴訟提起なども代行してくれたりなど、手厚いサポートも受けられます。
特に「自分の味方となって残業代回収のために動いてほしい」という場合は、弁護士への相談が有効です。
退職後の残業代請求に関するよくある質問5選
ここでは、退職後の残業代請求に関するよくある質問について解説します。
1.残業代は辞めてから請求できますか?
未払いになっている残業代は、退職後でも請求できます。
残業が発生した場合、従業員は会社に対して残業代を請求できる権利があり、退職したからといって請求権が消滅するわけではありません。
自己都合退職であろうと会社都合退職であろうと残業代は請求できますので、諦めずに請求しましょう。
2.退職後いつ残業代を請求すればよいですか?
残業代の未払いが発覚した時点で、速やかに請求手続きを進めましょう。
残業代請求では「残業代が支払われる給料日から3年」の時効があり、時効期間を過ぎて時効が成立してしまうと請求できなくなります。
なお、時効成立が間近に迫っている場合でも、催告などによって時効の完成を先延ばしにして適切に動くことができれば回収できる可能性があります。
すでに退職してから時間が経っている場合は、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。
3.残業代がつかないのは労基違反ですか?
残業しているにもかかわらず残業代がつかない場合、労働基準法違反に該当します。
例外として、以下のようなケースでは基本的に残業代が出なくても違法ではありません。
- 固定残業代制の場合
- 管理監督者である場合
- みなし労働時間制・裁量労働制の場合
- 農業・畜産・水産業などの一次産業の場合 など
4.労基に訴えると会社にバレますか?
残業代未払いについて労働基準監督署に通報したりしても、基本的にはバレません。
労働基準監督官には守秘義務が定められており、第三者に通報内容を漏らすことは禁じられています(労働基準法第105条)。
たとえ会社から通報者の情報を聞かれても教えることはありませんが、会社が小規模な場合や、通報内容から特定されやすいような状況の場合などは、事実上バレることもあります。
5.1分でも過ぎたら残業代は発生する?
原則として、1分でも法定労働時間を超えれば残業代は発生します。
労働基準法第24条では「賃金全額払いの原則」が定められており、たとえ1分でも働いた時間に対しては正当な対価を支払う義務があります。
ただし「1ヵ月の合計残業時間で30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる」というような処理については、事務負担を軽減するために例外的に認められることもあります。
さいごに|退職後に残業代請求するなら、まずは弁護士に相談を
退職後に未払い残業代を請求するなら、まずは弁護士に相談しましょう。
弁護士なら、残業代回収のために必要な情報を教えてくれるだけでなく、自分の代理人として請求手続きを一任することもでき、心強い味方となって手厚いサポートが受けられます。
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