土地を長年利用しているうちに、「この土地は自分のものにできるのでは?」と感じたことはありませんか。
実は、一定の条件を満たすと「時効取得」という制度を使って、土地の所有権を取得できる場合があります。
ただし、時効取得を成立させるには法的な手続きが必要なうえ、登記や弁護士への依頼などに費用がかかる点にも注意が必要です。
そこで本記事では、土地の時効取得にかかる費用から、必要な要件、手続きの具体的な流れまで一つひとつ丁寧に解説します。
「どのくらい費用がかかるのか」「自分の場合は時効取得が可能か」知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
土地の時効取得手続きにかかる費用
土地の時効取得手続きにかかる費用は、主に以下のとおりです。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 所得税・住民税
- 訴訟費用
- 専門家への報酬
それぞれの費用について、詳しく見ていきましょう。
登録免許税|所有権の移転登記をする際に発生
登録免許税は、土地の名義を自分に変更する「所有権移転登記」の際に、法務局へ納める国税です。
計算方法は以下のとおりです。
| 登録免許税=固定資産税評価額×2.0% |
例えば、評価額が1,000万円の土地を時効取得した場合、登録免許税は20万円です。
納付は、申請書に税額分の収入印紙を貼っておこないます。
不動産取得税|土地の固定資産税評価額によって変わる
不動産取得税は、土地や建物などの不動産を取得した際に都道府県に納める税金です。
計算方法は原則として以下のとおりですが、宅地の場合は特例があります。
| 不動産取得税=固定資産税評価額×3% |
宅地の場合、令和9年3月31日までの取得であれば、課税対象となる評価額が半分になる軽減措置が適用されます。
| 不動産取得税宅地の場合)=(固定資産税評価額×1/2)×3% |
評価額1,000万円の宅地であれば、不動産取得税は(1,000万円×1/2)×3%=15万円となります。
所得税・住民税|土地を得たことによる一時所得に対してかかる
土地を時効取得すると、その土地の時価相当額分の利益を得たとみなされ、「一時所得」として所得税と住民税の課税対象になります。
見落としがちな費用ですが、金額が大きくなる可能性があるので注意が必要です。
課税対象となる金額は、以下の2段階で計算します。
- 一時所得の金額を計算する
一時所得の金額=土地の時価−時効取得に直接要した費用−特別控除額(最大50万円) - 課税対象額を計算する
課税対象額=一時所得の金額×1/2
この課税対象額を給与所得などのほかの所得と合算したうえで、最終的な所得税額が決まります。
ここで非常に重要なのは、「時効取得に直接要した費用」には弁護士や司法書士への報酬は含まれないという点です。
訴訟費用|土地所有者が応じず裁判に発展した場合
土地の所有者が時効取得にすんなり応じてくれるケースはまれで、多くの場合、裁判で解決を目指すことになります。
そして、裁判を起こす際には、裁判所に「訴訟費用」を納める必要があります。
訴訟費用の主な内訳は以下のとおりです。
- 収入印紙代:金額は「固定資産税評価額の2分の1」で計算されることが多いです。評価額1,000万円の土地なら訴額は500万円となり、印紙代は3万円です。
- 郵便切手代:裁判所からの書類送付に使われる切手代で、一般的には数千円程度です。
これらの費用は、裁判に勝訴すれば相手方の負担にできますが、訴訟を提起する時点では自分で支払う必要があります。
専門家への報酬|手続きを専門家へ依頼する場合
時効取得の手続きは非常に専門的で、特に裁判になると個人で対応するのは困難です。
そのため、弁護士や司法書士といった専門家への依頼が一般的です。
弁護士・司法書士に依頼した場合のそれぞれの費用相場は、以下のとおりです。
土地の時効取得を弁護士に任せる場合の費用
土地の時効取得にかかる弁護士費用は、主に「相談料」「着手金」「報酬金」で構成されます。
それぞれの内容は、以下のとおりです。
- 相談料:30分5,500円程度が相場ですが、初回無料の事務所も多いです。
- 着手金:依頼時に支払う費用で、20万円~50万円程度が目安です。
- 報酬金:成功報酬として、時効取得が認められた際に支払います。取得した土地の経済的利益(評価額)の10%~16%程度が一般的です。
土地の時効取得を司法書士に任せる場合の費用
司法書士は主に登記手続きの専門家です。
費用は弁護士より安く、登記関連の書類作成や申請代行で5万円~15万円程度が相場です。
ただし、司法書士が代理人として交渉や訴訟をおこなえるのは、訴額が140万円以下の簡易裁判所の案件に限られます。
土地の時効取得でこの金額に収まることはほとんどないため、争いがある場合は司法書士では対応できない点に注意が必要です。
必要書類の取得費用|合計で数千円程度
土地の時効取得手続きには、住民票や戸籍謄本、固定資産評価証明書などの書類が必要です。
これらの書類の取得費用として、合計で数千円程度がかかります。
土地を時効取得するための要件
土地の時効取得は、単に「長年使っているから」という理由だけでは認められません。
時効取得を認めてもらうには、民法で定められた以下4つの要件を全て満たす必要があります。
【時効取得が認められる4つの要件】
- 所有の意思をもって占有していること
- 平穏かつ公然と占有していること
- 一定期間、占有を継続していること
- 他人の物であること
詳しくは、以下の記事で解説しているので、手続き前に条件を確認しておきましょう。
【関連記事】時効取得は難しい?不動産の時効取得・要件・手続きの流れなどを解説
土地を時効取得する手続きの流れ
時効取得の要件を満たしていることが確認できたら、次はいよいよ実際の手続きに進みます。
以下では、土地を時効取得する流れについて詳しく見ていきましょう。
1.土地の権利関係者に時効取得の援用を主張する
土地の時効取得は、要件を満たして期間が経過しただけで認められるものではありません。
土地の所有権を得るには、「時効が完成したので、この土地の所有権を取得します」という意思表示(時効の援用)をする必要があります。
まずは、法務局で土地の登記簿謄本を取得し、現在の登記名義人が誰なのかを確認し、その登記名義人に対して「時効援用通知書」を配達証明付き内容証明郵便などで送付しましょう。
内容証明郵便は、あとの裁判で「そんな通知は受け取っていない」と言わせないための、極めて重要な証拠となります。
2.権利関係者の理解を得られない場合は訴訟を提起する
時効取得について内容証明郵便を送っても、登記名義人が協力してくれるケースは少ないでしょう。
そのため、ほとんどのケースで訴訟を起こすことになります。
所有権移転登記請求訴訟という裁判を起こし、裁判官に対して、時効取得の4つの要件を満たしていることを証拠とともに主張・立証していきましょう。
なお、登記名義人がすでに亡くなっている場合はその相続人全員を、行方不明の場合は特別な手続きを利用して、訴訟を進めることになります。
手続きは極めて複雑になるため、弁護士のサポートが不可欠です。
3.所有権移転登記をおこなう
裁判で勝訴し、「時効取得を認める」という判決が確定すれば、いよいよ最終段階の所有権移転登記です。
この登記を完了させて初めて、第三者に対しても「この土地は私のものです」と主張できるようになります。
なお、登記を完了する前に元の所有者が第三者に土地を売却し、その第三者が先に登記を済ませてしまうと、あなたは土地の所有権を失ってしまう可能性があります。
そのため、手続きは迅速に進めることが何よりも重要です。
「土地の時効取得は難しい」と言われるのはなぜ?
ここまで解説した内容からもわかるとおり、土地の時効取得は決して簡単ではありません。
ここからは、土地の時効取得が難しいと言われる理由について、より詳しく見ていきましょう。
要件のひとつである「所有の意思」が認められるハードルが高いため
時効取得の裁判で最も厳しく問われるのが「所有の意思」があったかどうかです。
「自分の土地だと思っていた」という主観的な気持ちだけでは不十分で、固定資産税の支払いや建物の建築といった、客観的に「所有者らしい行動」をしていたことを示す証拠が求められます。
10年、20年前の事実を証明するための証拠を集めるのは非常に困難な作業であり、ここでつまずいてしまうケースも少なくありません。
相続人全員の協力がないと手続きをすすめられないため
登記上の土地所有者がすでに亡くなっている場合、問題はさらに複雑になります。
手続きの相手方は、その人の「相続人全員」となるからです。
裁判をせずに手続きを進めるには、相続人全員を探し出し、全員から同意のハンコをもらう必要があります。
一人でも反対する人がいれば、裁判を起こすしかありません。
当事者に同意してもらえない場合は訴訟をしなくてはならないため
時効取得は、ほとんどのケースで訴訟に発展します。
そして、裁判は弁護士費用や裁判所に納める費用など金銭的な負担が大きいだけでなく、解決までに数年かかることもあり、時間的・精神的な負担も相当なものです。
そのため、時間や費用の負担を考えて時効取得を諦めてしまう方も多いのです。
土地の時効取得についてよくある質問
最後に、土地の時効取得に関して多くの方が抱く疑問について紹介します。
土地の時効取得に必要な証拠とは?
裁判で時効取得を認めてもらうためには、「所有の意思をもって」「一定期間」「平穏かつ公然と」占有していたことを客観的に証明する証拠が必要です。
【有効な証拠の例】
- 公的な書類:自分で支払った固定資産税の納税通知書や領収書、土地の上に建てた建物の登記簿謄本など。
- 写真や地図:占有を開始した時期や、長年にわたる利用状況がわかる日付入りの写真や、国土地理院が公開している過去の航空写真など。
- 第三者の証言:長年近所に住んでいる人からの「あの土地は昔から〇〇さんが自分の土地として使っていた」という内容の陳述書など。
固定資産税を払っていないと土地の時効取得は難しい?
固定資産税を支払っていなくても、時効取得が認められる可能性は十分にあります。
固定資産税は、原則として登記簿上の所有者に請求されます。
そのため、時効取得を主張する人が税金を支払っていないこと自体は、不自然なことではありません。
ただし、もしあなたが登記名義人に代わって固定資産税を支払っていた事実があれば、それは「所有の意思」があったことを示す非常に強力な証拠となります。
さいごに|土地の時効取得はトラブルの種!まずは専門家に相談を!
これまで見てきたように、土地の時効取得は多くの費用がかかるだけでなく、法律上の厳しい要件をクリアし、複雑な手続きを踏む必要があります。
特に、元の所有者やその相続人との間でトラブルに発展しやすく、精神的にも金銭的にも大きな負担となる可能性が高いです。
そのため、スムーズに、そして有利に手続きを進めるためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
「今管理している土地を時効取得できるのではないか」「相手方とトラブルになるのが心配」という方は、まず弁護士にご相談ください。
弁護士なら、現在の状況を法的な観点から分析し、最適な解決策を提案してくれます。
