- 「相続放棄を迫られている。言いなりになるしかないのだろうか?」
- 「脅しや嫌がらせを受け、相続放棄してしまった。取り消しはできるのか?」
相続放棄について親族から執拗な嫌がらせを受け、このように悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、「相続放棄をしろ」とほかの相続人から強要されても、応じる必要はありません。
相続権は法定相続人の当然の権利であり、相続放棄するかどうかは相続人自身が自由に決めることであるためです。
しかし、嫌がらせを受けている以上「何とかしたい」と考えている方も多いはずです。
そこで本記事では、相続放棄をするよう迫られ嫌がらせをされたときの対処法や、相続放棄の取り消し方法について解説します。
最後まで読めば、今すぐ取るべき行動と平穏を取り戻すための方法が明確になるでしょう。
相続放棄をしろと嫌がらせを受けた!応じるしかない?
特定の相続人から「お前は相続放棄しろ」「長男である自分が全て相続するから、お前はサインだけすればいい」などと高圧的な態度で迫られ、さらに嫌がらせを受ければ、言われたとおりにするしかないと考えてしまうかもしれません。
しかし、その要求に応じる必要はありません。
相続は法定相続人の当然の権利であり、誰であっても無理やり相続放棄させることはできないためです。
相続権は、法律に基づく例外的な措置でしか奪えません。
ここでは、相続放棄の強要に応じる必要がないといえる理由について解説します。
ほかの相続人であっても無理やり相続放棄をさせることはできない
亡くなった方の配偶者や子ども、親、兄弟姉妹といった法定相続人には、民法によって遺産を相続する権利が明確に保障されています。
これは相続人それぞれがもつ正当な権利であり、たとえほかの相続人であっても、本人の意思に反して無理やり相続放棄させることはできないのです。
仮に「自分が長男だから」「家を継ぐから」といった事情があっても、相続権を侵害してよい理由にはなりません。
法律に基づく例外的な措置でしか法定相続人の相続権は奪えない
法定相続人の相続権が奪われるのは、法律で定められたごく例外的なケースに限られます。
具体的には、以下に該当した場合です。
| 相続欠格 | 被相続人を殺害したり脅迫して自分に有利な遺言書を書かせたりするなど、著しく不当な行為をした場合に、自動的に相続権を失う制度。 |
| 相続人の廃除 | 被相続人を虐待したり侮辱したりした場合に、被相続人が家庭裁判所に申し立ててその相続人の権利を剥奪する制度。 |
このような、極めて悪質なケースでない限り相続権は失われません。
ほかの相続人の「遺産を独り占めしたい」「気に入らない」というような勝手な感情で、相続人としての権利が奪われることはないと知っておきましょう。
相続放棄をするよう迫られ嫌がらせをされたときの対処法
相続放棄をするよう迫られ、嫌がらせをされたときは以下の方法で対処しましょう。
- 弁護士に相談・依頼する
- 嫌がらせがひどければその証拠を残しておく
- 身の危険を感じるほどの嫌がらせであれば警察に相談する
ここからは、それぞれの対処法について詳しく解説します。
弁護士に相談・依頼して交渉してもらう
相続放棄について嫌がらせを受けているときに最も有効なのは、弁護士への相談・依頼です。
多くの場合、嫌がらせをしてくる相手の主張には法的根拠がありません。
そのため、嫌がらせを受けている側が弁護士を立てた途端、不当な主張を続けられなくなることがほとんどです。
何より、弁護士に依頼すれば嫌がらせの相手との交渉を全て代理してもらえます。
遺産分割調停を申し立てる
相続放棄の強要や嫌がらせが原因で話し合いがまとまらず、当事者同士での解決が難しい場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。
遺産分割調停とは、裁判官や調停委員といった中立的な第三者を交えて、遺産の分け方について話し合う手続きのことです。
調停委員が間に入ることで感情的な対立が緩和され、冷静に話し合えるというメリットがあります。
また、理不尽な主張や嫌がらせを繰り返す相続人に対しては、調停委員が説得を試みてくれることもあります。
裁判所という場で注意を受ければ、相手も不当な態度を改めざるを得ないでしょう。
なお、調停でも話がまとまらなければ、手続きは自動的に審判に移行し、裁判官が遺産の分け方を決定します。
審判まで進めば、たとえ相手が嫌がらせを続けても、法的に遺産分割問題が解決します。
相続放棄に応じることなく、膠着した状況を打開できる有効な手段といえるでしょう。
嫌がらせがひどければその証拠を残しておく
相続放棄についての嫌がらせが悪質な場合は、相手に対して慰謝料や損害賠償を請求できる可能性があります。
そのため、将来的に慰謝料請求をするときに備えて、相手から受けた嫌がらせの証拠を残しておきましょう。
客観的な証拠があれば、相手の不当性を法的な場で主張できます。
具体的には、以下のような証拠が有効です。
| 証拠の種類 | 具体例・ポイント |
| 音声データ | 相続放棄を強要する会話や暴言などを、ボイスレコーダーやスマートフォンの録音機能で録音したもの。 |
| メール・LINEなど | メールやLINE、SNSなど、相続放棄を強要する内容のメッセージのスクリーンショット。 相手のアカウント名や日時がはっきり写るよう撮影するのがポイント。 |
| 書面 | 相手から送られてきた手紙や念書など。 特に、無理やり書かされた念書は強要があったことを示す重要な証拠になり得る。 |
| 日記・メモ | いつ・どこで・誰から・何を言われ・どう感じたかを時系列で記録したもの。 詳細であるほど信憑性が高まる。 |
| 第三者の証言 | 嫌がらせの現場に同席していたほかの相続人や親族、相談に乗ってくれた友人などの証言。 可能であれば、証言内容をまとめた陳述書に署名・捺印をもらっておくとより強力な証拠になる。 |
このような証拠はひとつでも多く、継続的に集めておくことが重要です。
集めた証拠は弁護士に確認してもらい、有効な活用方法やアドバイスをもらうとよいでしょう。
身の危険を感じるほどの嫌がらせであれば警察に相談する
相続放棄の強要や嫌がらせがエスカレートし、「相続放棄しないと危害を加える」というような脅迫を受けた場合は、警察へ相談しましょう。
脅迫や暴力行為を伴う嫌がらせは、単なる相続トラブルではなく、強要罪や脅迫罪、暴行罪といった刑事事件にあたる可能性があります。
親族間の問題を大きくしたくない、警察沙汰にしたくないと思うかもしれませんが、身の安全の確保が最優先です。
相談の際は、これまでに集めた嫌がらせの証拠を持参すると、状況が伝わりやすくなります。
警察に相談すると、状況に応じて相手に警告してくれたりパトロールを強化してくれたりするほか、悪質なケースでは加害者の逮捕・起訴につながる場合もあります。
嫌がらせで相続放棄をしてしまったあとに取り消すことはできる?
嫌がらせに屈してしまい相続放棄をした場合でも、一度家庭裁判所に受理されてしまうと原則として取り消しはできません。
強要されたなど、そもそも意思表示に問題があったときは例外的に取り消しが認められる可能性もありますが、原則として取り消しは難しいでしょう。
ここでは相続放棄の取り消しについて、原則と例外、そして具体的な取り消し方法を解説します。
原則として相続放棄の受理後に取り消すことはできない
家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されると、たとえ熟慮期間内であっても、原則として取り消すことはできません。
自己都合による取り消しは、相続関係の安定を著しく害するためです。
なお、取り消しと似て非なる手続きに「撤回」がありますが、それぞれ以下のように意味が異なります。
| 撤回 | 「やっぱり相続したい」など、一度有効に成立した意思表示を、あとから自己都合で取り下げること。 撤回を認めてしまうとほかの相続人や債権者が不安定な立場に置かれてしまうため、一切認められていない。 |
| 取り消し | 詐欺や強迫によって意思表示を強いられた場合など、相続放棄の意思表示自体に問題があったときに、その効力をはじめからなかったことにする手続き。 原則できないが例外的に認められることもある。 |
強要されて申述してしまった場合は、上記の「取り消し」にあるとおり、相続放棄の意思表示に問題があったといえます。
そのため、取り消しが法的に認められるかどうかを検討していくことになります。
受理前であれば取り下げは可能
申述書を家庭裁判所に提出したあとでも、受理される前であれば申述の取り下げが可能です。
申述書の提出から受理までには、通常2週間から1ヵ月程度かかります。
その間に取下書を提出すれば、相続放棄の申立て自体をなかったことにできます。
取り下げ後は、まだ意思表示をしていない状態に戻るため、熟慮期間内であれば再度相続放棄を申述することも可能です。
ただし、熟慮期間の期限間際に取り下げをした場合、再度手続きの準備をしている間に熟慮期間を過ぎてしまい、申述が間に合わなくなるリスクがある点に注意が必要です。
強要されたなど特別な事情があれば取り消しできる場合もあるが難しい
相続放棄の意思表示自体に法的な問題があった場合は、例外的に取り消しが認められることがあります。
取り消しが認められる可能性があるのは、以下のようなケースです。
| 取り消しできる可能性があるケース | 事例 |
| 強迫 | 「相続放棄しないと危害を加える」などと脅されて相続放棄した場合 |
| 詐欺 | 「多額の借金しかない」と騙されて相続放棄した場合 |
| 未成年者の無断行為 | 未成年者が法定代理人の同意なく、勝手に相続放棄した場合 |
しかし、強迫や詐欺を理由に取り消すには、強迫があったことや騙されたことを客観的な証拠で立証しなければなりません。
そのため、実際に取り消しが認められるのはまれであり、極めて困難であるのが現実です。
相続放棄を取り消す方法
相続放棄の取り消しを求める場合は、以下の方法でおこないます。
- 相続放棄取消申述書と必要書類を家庭裁判所に提出する
- 家庭裁判所が取り消しを認めるか否かを審理する
- 取り消しが認められれば「相続放棄取消受理通知書」が送付される
まずは、以下の書類などをそろえて家庭裁判所に提出しましょう。
- 相続放棄取消申述書
- 相続放棄する方の戸籍謄本
- 取消原因を証明する証拠
- 800円分の収入印紙
- 郵便切手(裁判所によって異なる)
なお、相続放棄取消申述書の書式は、インターネット上では一般公開されていません。
相続放棄の申述をした家庭裁判所に相続放棄を取り消したい旨を伝え、書類を郵送してもらいましょう。
申述後は家庭裁判所で審理がおこなわれます。
審理は書類審査が中心ですが、場合によっては家庭裁判所から呼び出されたり照会書が送られてきたりして、取り消しに至った詳しい事情を確認されることがあるので、適切に対応しましょう。
その後、取り消しが認められると「相続放棄取消受理通知書」が送付され、手続きは完了です。
取り消しが認められた場合、相続放棄ははじめからなかったことになり相続権が戻るため、あらためて遺産分割協議に参加したり、相続手続きを進めたりできるようになります。
相続放棄するよう嫌がらせを受けたら弁護士に相談するとよい理由
遺産相続の際にほかの相続人から「相続放棄しろ」などと嫌がらせを受けたら、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談するとよい理由は以下のとおりです。
- 嫌がらせ相手と関わらずにすむようになる
- 遺産分割の対象となる遺産の範囲を正確に把握できる
- 相手の不当な主張を拒否して公正な遺産分割を実現できる
- 遺産分割に関わるトラブルをスムーズに解決しやすくなる
- 調停や訴訟といった裁判手続きも代行してもらえる
感情的な相手とのやりとりは、精神的に大きな負担になります。
弁護士に相談・依頼することは、法的な問題を解決するだけでなく、精神的ストレスから解放されることも意味します。
弁護士が代理人として相手と交渉してくれるため、直接相手と顔を合わせずに済み、安心して本来の権利を守れるでしょう。
ここからは、弁護士に相談するとよい理由を一つずつ見ていきます。
嫌がらせ相手と関わらずにすむようになる
弁護士に依頼すると交渉の窓口を弁護士に一本化できるため、嫌がらせをしてくる相手と直接やりとりする必要がなくなります。
専門家が代理人として交渉することで、精神的なストレスを大きく軽減できるでしょう。
相手が感情的になっているケースでも、弁護士が間に入ることで一方的な嫌がらせが止み、冷静な話し合いができるようになる場合があります。
遺産分割の対象となる遺産の範囲を正確に把握できる
遺産分割の際は、遺産の全体像を正確に把握することから始まります。
しかし、嫌がらせをしてくる相続人が財産を管理している場合、意図的に一部の財産を隠している可能性も否定できません。
その点、弁護士に依頼すれば「弁護士会照会(23条照会)」という法律に基づく強力な調査権限を用いて、銀行や証券会社、保険会社などに調査をかけられます。
個人では照会を拒否されるような情報も開示させられる場合があるため、相手が隠している財産や誰も知らなかった負債まで、徹底的に洗い出すことが可能です。
相手の不当な主張を拒否して公正な遺産分割を実現できる
相続放棄の強要や嫌がらせの多くは、法的根拠のないただの感情論です。
しかし、当事者同士の話し合いでは相手の勢いに押され、不本意な同意をしてしまう危険性があります。
その点、弁護士は法律の専門家として、相手の要求が法的に認められないことや、これ以上の強要は強要罪などの刑事事件に発展する可能性があることなど、相手の行為が違法であると警告します。
法律の専門家から指摘を受ければ、ほとんどの相手は態度を軟化させるものです。
万が一、相手の態度が変わらず調停や審判に移行した場合でも、弁護士は依頼者の代理人として公正な遺産分割の実現をサポートしてくれるでしょう。
遺産分割に関わるトラブルをスムーズに解決しやすくなる
相続トラブルはそれぞれの感情が複雑に絡み合うため、一度こじれると解決が非常に難しくなります。
特に当事者同士の話し合いでは、過去の不満が出てきたり、感情的な言い争いに始終してしまったりと、本筋からずれてしまいがちです。
弁護士は、こうした複雑な状況でも争点を整理し、解決までの道筋を明確に示してくれます。
何が問題で、どうすれば解決できるかを冷静に分析することで、無駄な言い争いをなくし、話し合いをスムーズに進められるようになるでしょう。
調停や訴訟といった裁判手続きも代行してもらえる
弁護士に依頼すれば、複雑な手続きの大部分を代理でおこなってもらえます。
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停や審判といった手続きで解決を目指すのが一般的です。
また、嫌がらせがエスカレートして民事訴訟に発展するケースもあります。
このような法的手続きでは、申立書の作成や証拠の提出、期日での主張など、専門的な準備と対応が求められますが、弁護士に依頼していれば依頼者の代理人として対応してもらえることがほとんどです。
特に審判や訴訟では、当事者尋問などがない限り裁判所に出席する必要はなく、弁護士に対応を一任できます。
調停は話し合いの場であるため本人の出席が望ましいとされることもありますが、弁護士の出席だけで進められることも少なくありません。
このように、複雑な手続きから解放されるだけでなく、法廷という非日常的な環境での精神的プレッシャーを軽減できる点も、弁護士に相談するとよい理由といえるでしょう。
さいごに|遺産相続に関する嫌がらせを受けて困っているなら弁護士に相談を!
相続放棄をするよう嫌がらせを受けた場合に、泣き寝入りせずに済む知識や対処法を解説しました。
相続放棄を強要されても、応じる義務はありません。
相続は相続人の当然の権利であり、強要や脅迫は違法・犯罪になり得ます。
いったん受理された相続放棄は原則取り消しできませんが、強迫や詐欺などの事情がある場合は認められることがあります。
受理される前であれば取り下げが可能ですが、もし最終的に相続放棄を選択する場合、熟慮期間内に再申述が間に合わなくなるリスクがあるため、タイミングには注意が必要です。
遺産相続に関する嫌がらせを受けて困っているなら、弁護士への相談を検討しましょう。
嫌がらせ相手と直接やりとりする必要がなくなり、公正な遺産分割を実現できる可能性が高まります。
また、調停や訴訟といった法的手続きでも大部分を任せられるため、精神的な負担を大きく軽減できます。
嫌がらせがエスカレートし身の危険を感じたときは、迷わず警察に相談しましょう。
