物損事故から人身事故への具体的切り替え方法|手続期限やメリットも解説

物損事故から人身事故への具体的切り替え方法|手続期限やメリットも解説

事故の直後はけががないと思い込んで物損事故にした場合でも、後日痛みが出てきたときは人身事故に切り替えて補償を請求できます

一度物損事故で処理してしまったからといって切り替えを諦めてしまうと、本来受け取るべき補償を受けられなくなってしまいます。

本記事では、交通事故を物損事故から人身事故に切り替える具体的な手続き方法を解説します。

また、人身事故に切り替えることで受けられる補償についても詳しく紹介するので、切り替えで迷っている方はぜひ参考にしてみてください。

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物損事故と人身事故の違いとは?

交通事故には物損事故と人身事故があります。

両者の違いは「死傷者が出たか否か」です。

事故によって人がけがを負ったり亡くなったりした場合は人身事故となり、事故によって発生した損害が物の損傷だけだった場合は物損事故として処理されます。

基本的には人身事故のほうが被害が大きいとみなされるため、損害賠償の範囲が広く、加害者の責任も重くなります。

以下は、人身事故と物損事故の違いをまとめた表です。

人身事故 物損事故
賠償範囲 ・身体的損害
・精神的損害
物的損害
損害賠償請求額 ・修理代などの実費
・治療費
・慰謝料
・休業損害
・逸失利益
修理代などの実費のみ
加害者の責任 ・懲役・罰金を含む刑事処分
・運転免許の違反点数加算
加害者逃亡した場合以外は違反点加算なし
警察の関与 実況見分や当事者への聞き取りによって詳細な記録を作成する 簡易的な物件事故報告書の作成にとどまる

このように、人身事故の場合、被害者は心身に傷害を負うため、治療費や慰謝料などを請求できます。

また、加害者の責任も重くなります。

人身事故の加害者は、以下のような刑事罰に問われる可能性があります。

  • 道路交通法違反:10年以下の懲役または100万円以下の罰金 など
  • 過失運転致死傷罪:7年以下の懲役もしくは禁固、または100万円以下の罰金
  • 危険運転致死傷罪:負傷は15年以下の懲役、死亡は20年以下の懲役

運転免許の違反点が加算され、免許停止や免許取消にも処せられることもあります。

物損事故の場合は、当て逃げを除いて刑事責任や免許証の違反点加算もなく、賠償範囲は修理代などの実費のみで済むため、加害者や加害者側保険会社はできるだけ物損事故にしようとするのです。

物損事故の場合は、自賠責保険からの補償が受けられない点にも注意しましょう。

自賠責保険が適用されないため、加害者が不明のときに利用できる補償制度「政府保障事業」も対象外となってしまいます。

【関連記事】物損事故とは?事故後の流れや人身事故との違いを解説

物損事故から人身事故への切り替え方法

事故の瞬間は興奮していてわからなかったけれど、後日痛みが出てしまったような場合もあるでしょう。

一度物損事故として処理されたケースでも、しばらくしてけがが判明した場合には、物損事故から人損事故へ切り替えられます

以下で、物損事故から人身事故への切り替え方法の流れについて具体的に解説します。

  1. 病院受診、診断書作成
  2. 管轄の警察署で切り替え依頼
  3. 警察と実況見分
  4. 自動車安全運転センターで交通事故証明を取得
  5. 保険会社に連絡

1.病院受診、診断書作成

まずは病院を受診し、診断書の作成を受けましょう。

受診先は、整形外科が望ましいといえます。

診断書は以下の内容を中心に、交通事故によるけがであることがわかるように記載してもらうことがポイントです。

  • 初診日
  • 事故日
  • 必要となる治療期間
  • けがと事故との因果関係

診断書の発行手数料は病院によって異なりますが、およそ3,000円〜5,000円程度です。

2.管轄の警察署で切り替え依頼

次に、事故が発生した場所を管轄する警察署へ行き、物損事故から人身事故への切り替えを依頼しましょう。

警察署に出向く際には事前に連絡し、予約を入れておくとスムーズです。

申請できるのは、交通事故の当事者と、交通事故証明書の交付を受けることについて正当な理由のある者で、これは保険金の受取人や損害賠償請求権のある親族を指します。

警察署には、以下のものを持参してください。

  • 診断書
  • 運転免許証
  • 車検証
  • 自賠責保険証
  • 印鑑

被害車両の写真などがあれば持参するとスムーズです。

電話で必要な書類をあらかじめ確認して揃えておきましょう。

3.警察と実況見分

警察に物損事故から人身事故への切り替えを依頼すると、再度警察主導で当事者立ち会いのもと、実況見分がおこなわれます。

最終的に切り替えの判断をするのは警察です。

警察は、事故発生当時の状況や事故車両の被害状況などを詳しく確認し、「実況見分調書」を作成します。

実況見分調書には、以下の事項が記載されます。

  • 調書を作成した日時、場所、立会人名
  • 事故現場の道路の状況
  • 事故車両の状態
  • 当事者の説明
  • 現場の見取り図や写真

実況見分には数時間程度かかるので、なるべく時間に余裕のある日に設定してもらいましょう

当日は加害者と被害者が離れた場所で別々に意見を聞かれます。

4.自動車安全運転センターで交通事故証明を取得

交通事故証明は、保険会社に賠償金を請求するために取得しておかなければならない書類です。

取得するためには、各都道府県にある自動車安全運転センター窓口へ手数料を添えて申請しましょう。

また、インターネットからも申請可能です。

交付手数料1通800円と振込手数料132円がかかります。

【参考元】個人申請受付|自動車安全運転センター

なお、警察署に備え付けられている申込書類を使って、郵便局から申請することもできます。

ただし、郵便局からの申請だと手数料が異なるので注意が必要です。

5.保険会社に連絡

自分と加害者の保険会社に連絡し、人身事故へ切り替えたことを報告しましょう。

物損事故と人身事故では受けられる補償内容も変わってくるので、双方の保険会社から今後の流れについて説明を受けるようにしてください。

特に加害者の保険会社に連絡せずにいると、治療費の取り扱いなどに関して、あとからトラブルになる可能性があります。

その後は、けがの治療が終了次第、示談交渉が開始されます。

【関連記事】交通事故の示談交渉で最高額の慰謝料をもらうには?示談金の算出方法や過失割合の考え方、示談書の注意事項など

物損事故から人身事故への切り替えが認められなかった場合の対処法

警察から人身事故への切り替えを却下された場合には、「人身事故証明書入手不能理由書」を作成し、加害者の自賠責保険会社に提出しましょう。

警察では却下されていても、自賠責保険会社では人身事故として扱われるようになるので、一定の補償を受けることができます。

身事故証明書入手不能理由書は、保険会社から入手可能です。

理由欄があるので、人身事故を物損事故として届け出てしまったことを記載してください。

実際に、事故発生日から時間が経過しすぎている場合などは、切り替えが認められないこともあるので、人身事故証明書入手不能理由書を有効に活用しましょう。

【関連記事】人身事故証明書入手不能理由書の書き方と知るべき注意点

物損事故から人身事故への切り替えは事故後10日以内が望ましい

物損事故から人身事故への切り替えに、法的な期限は設けられていません。

ただし、切り替えはなるべく早くおこなう必要があります。

事故から受診までの期間が長ければ長いほど、けがと事故との因果関係を疑われる可能性が高くなるからです。

診断書が取れたとしても、事故から時間が経過していることを理由に警察で却下されることもあります。

物損事故から人身事故への切り替えは、事故発生から1週間から10日程度を目安に申請しましょう。

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物損事故から人身事故に切り替えるメリット

物損事故から人身事故に切り替えることは、自身が受けられる補償の増額だけでなく、加害者に対する正当な処分を求めることにもつながります

ここでは、物損事故から人身事故に切り替えるメリットを3つ紹介します。

1.治療費や慰謝料の請求が可能になる

人身事故に切り替えることで、物損事故では補償されなかった治療費や、通院・入院の慰謝料が補償されます。

また、後遺障害が残った場合には、後遺障害等級認定を受けることで、後遺障害慰謝料・逸失利益などの補償も受けられます。

そのほか、人身事故の補償対象には、以下のような項目があります。

<物的損害>
修理費用 被害車両の修理にかかった費用
代車使用料 被害車両を修理している間に代車を利用した場合の費用
評価損 修理しても事故車として評価額が減少する場合の評価損。保険会社では評価損を認めないのが実情
休車補償 事故で営業車両を使用できなくなった場合に、稼働できれば得られたであろう利益に相当する額の補償
積荷損 トラックなどに載せていた積荷が事故によって破損した場合の補償。必ずしも全額請求できるわけではない
<人身損害>
積極損害 治療費 けがの治療にかかった費用。医者の指示があれば鍼灸・マッサージなどにかかった費用も認められる
入院雑費 入院に必要な出費。日用品や雑貨の購入費用、通信費、文化費、栄養補給費など
通院費用 通院にかかった電車やバスの交通費、自家用車のガソリン代など。タクシー代は相当性がないと認められない
付添看護費 幼児、老人または歩行困難者の通院などに認められる付添費用
将来の看護費 介護の必要が残った場合の、将来必要とされる看護費用
児童の学費 事故による入院や通院によって授業が受けられずに学力が低下した場合の家庭教師代など
葬儀関係費 被害者の葬儀にかかった費用。弁護士基準では150万円、自賠責基準では60万円程度。
消極損害 逸失利益 後遺症や死亡により喪失した労働能力に対する賠償金
休業損害 事故でけがをしたために仕事を休業したことによる減収分の補填
慰謝料 入通院慰謝料 入院や通院した日数に応じて請求できる慰謝料
後遺障害慰謝料 事故により後遺障害が残った際に請求できる慰謝料
死亡慰謝料 事故によって被害者が死亡した際に、相続人である遺族が請求できる慰謝料

物損事故の場合、物的損害しか補償されませんが、人身事故の場合は物的損害と人的損害が補償対象です。

2.加害者に刑事処分・行政処分を科すことができる

人身事故になれば、加害者に対する処罰も重くなります。

相手の悪質な運転によって被害を受けた場合には、加害者に対して厳しい処分を望む気持ちもあるでしょう。

物損事故の場合は、当て逃げでないかぎり加害者に刑事処分や行政処分は科せられません。

人身事故になれば、刑事処分として懲役や罰金が課せられます

また、行政処分として運転免許証上の違反点数も加点されたうえで、免許停止処分や免許取消処分を受ける可能性もあります。

3.加害者が逃げた場合も国から補償を受けられる

加害者が逃亡した場合、被害者にけががなければ「当て逃げ」、けががあれば「ひき逃げ」になります。

ひき逃げでけがを負った場合の損害は、加害者が判明しなくても「政府保障事業」によって、自賠責保険の基準を限度として以下のように補償を受けられます。

  • 事故による傷害:限度額120万円
  • 事故による後遺障害:後遺障害等級により75万円〜4,000万円
  • 事故による死亡:限度額3,000万円

【参照元】限度額と保障内容|国土交通省

また、人身損害があるかないかで、警察の捜査意欲も大きく違ってくるでしょう。

ひき逃げの検挙率は高く、2022年では7割近くの事件が検挙されています(令和5年版 犯罪白書 )。

適切な賠償金を獲得するには弁護士に依頼するのがおすすめ

人身事故へと切り替えて適切な賠償金を獲得するためには、弁護士のサポートが必要不可欠です。

交通事故問題を得意とする弁護士に依頼することで、主に以下の3つのメリットがあります。

1.相手との交渉を任せ、治療に専念できる

弁護士に依頼すれば、保険会社などとの交渉を全て任せられるので、自身はけがの治療に専念できます

交通事故から日数が経過してしまうと、警察に診断書を提出しても認められない可能性もあるでしょう。

また、加害者側の保険会社も人身事故への切り替えに抵抗を示すかもしれません。

交通事故問題が得意な弁護士であれば、交通事故と負傷の因果関係を的確に示してくれます。

さらには、人身事故への切り替えをスムーズにおこない、相手方の保険会社に対しても適切な補償を請求してくれることでしょう。

また、保険会社との交渉がうまくいかず、裁判に発展した際に一貫したサポートを受けられる点も弁護士に相談・依頼する大きなメリットといえるでしょう。

2.妥当な過失割合を主張できる

妥当な過失割合を主張できることも、弁護士に依頼するメリットのひとつです。

交通事故の示談交渉を進めるなかで、相手が過失割合を争ってくるケースは少なくありません。

しかし、保険会社は交渉のプロなので、自分ひとりで交渉に臨むのは難しいでしょう。

ましてやけがを負っている状態であれば、早く決着をつけて補償を受けたいと折れてしまうかもしれません。

弁護士に依頼することで、ドライブレコーダーや本人の証言などから、過去の事例に基づく妥当な過失割合を算出し、相手の保険会社と対等に交渉できます。

弁護士基準で慰謝料を算定でき、賠償額が増額する

慰謝料額を「弁護士基準」で算出できることも、弁護士に依頼する大きなメリットといえるでしょう。

交通事故の慰謝料を算定する基準には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。

自賠責基準が最も低く、任意保険基準がおおよそ中間、弁護士基準が最も高い慰謝料算定額基準です。

自分ひとりで相手の保険会社と交渉すると、保険会社は任意保険基準による慰謝料額を提示してくるでしょう。

自分でこれを弁護士基準での算定額に変更するのは相当困難です。

弁護士に依頼することで、弁護士基準に基づいた慰謝料額を請求できます。

【算定基準別の慰謝料額】
通院期間 自賠責基準 任意保険基準 弁護士基準
(軽症・重症)
1ヵ月 8万6,000円 12万6,000円 19万円・28万円
2ヵ月 17万2,000円 25万2,000円 36万円・52万円
3ヵ月 25万8,000円 37万8,000円 53万円・73万円
4ヵ月 34万4,000円 47万8,000円 67万円・90万円
5ヵ月 43万円 56万8,000円 76万円・105万円
6ヵ月 51万6,000円 64万2,000円 89万円・116万円

※自賠責基準は、日額4,300円、1ヵ月あたりの実通院日数を20日として算定

まとめ

交通事故で、あとから痛みが出てけがをしていたことがわかった場合には、物損事故を人身事故に切り替えられます。

まずは病院を受診して診断書を出してもらいましょう。

事故から日数が経過してから受診すると、けがと事故の因果関係を疑われてしまう可能性があります。

事故から1週間〜10日以内を目処に受診し、切り替え手続きを進めるようにしてください。

人身事故に切り替えると、物損事故では補償されなかった治療費や慰謝料、休業損害などについても補償対象となります。

人身事故では、弁護士に依頼することで慰謝料の算定基準が変わるため、かなりの増額が期待できるでしょう。

弁護士に交渉を任せれば、自分はゆっくり治療に専念することもできます。

ひとりで悩まず、まずは交通事故問題を得意とする弁護士の無料相談を受けてみましょう

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監修記事
リベルタ総合法律事務所
山口 謙都 (大阪弁護士会)
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