公務員が刑事事件を起こすと、一般の人と同じように逮捕・勾留によって長期間身柄拘束をされるおそれがあります。
そして、有罪判決が下されると懲戒免職などのリスクが高まるのが実情です。
そのため、公務員が刑事事件を起こしたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談し、少しでも有利な刑事処分獲得を目指す必要があります。
この記事では、公務員が刑事事件を起こして逮捕されたときに生じるリスク、公務員が逮捕されたあとの刑事手続きの流れ、弁護士に相談・依頼するメリットなどについてわかりやすく解説します。
万が一、逮捕されるおそれがある場合は、本記事を参考に今後の対応を見極めてください。
公務員が逮捕されたらどうなる?考えられる主なリスクや処分
公務員の立場にありながら逮捕された場合、どのようなデメリットが生じるのでしょうか。
まずは、公務員が逮捕されたときに生じるリスクについて解説します。
身柄を拘束され、長期間欠勤せざるを得なくなる可能性がある
被疑者が公務員であろうがなかろうが、逮捕されると捜査機関に身柄を押さえられます。
逮捕後に想定される身柄拘束期間は以下のとおりです。
- 逮捕後に実施される警察段階の取り調べ:48時間以内
- 送検後に実施される検察段階の取り調べ:24時間以内
- 検察官の勾留請求が認められたとき:原則10日間以内(延長請求によって最長20日間まで)
つまり、公務員が逮捕された場合、1つの事件につき最長23日間は捜査機関に身柄拘束される可能性があるということです。
そして、この期間中は留置場から出ることができないので、仕事を欠勤せざるを得なくなります。
さらに、検察官が起訴処分を選択し、保釈請求が認められなかった場合には、起訴後勾留が継続するため、刑事裁判が終わるまで出勤することができません。
休職させられる可能性がある
公務員が刑事事件を起こして公判請求された場合、起訴休職制度が適用される可能性があります。
起訴休職制度が適用されると、起訴処分から判決が確定する日までは仕事を休まなければいけません。
起訴休職期間中、国家公務員の給与は60%まで減額、地方公務員の給与は各自治体が定める基準まで減額されます。
実名で報道される可能性がある
公務員が刑事事件を起こして逮捕されると、テレビの報道番組やインターネットニュース、新聞などで実名報道される可能性があります。
どのような事件を起こしたにもよりますが、一般的に公務員の刑事事件は関心が高いトピックなので、実名報道されるリスクは高いでしょう。
実名報道されると、家族・親族や周囲の人に刑事事件を起こした事実を知られて、信頼が失墜しかねません。
また、インターネットで氏名検索をするだけで過去の犯罪歴が発覚するので、結婚や転職に支障が出る可能性が高いです。
公務員としての職を失う可能性がある
公務員である被疑者が逮捕され、有罪が確定した場合には、当然に公務員としての職を失う可能性があります。
これを当然失職と呼びます。
当然失職の対象になるのは、「拘禁刑以上の刑に処せられて、その執行を終わるまで、または、その執行を受けることがなくなるまでの者」です。
そのため、実刑判決が確定した場合には、その時点で公務員としての職を失うことになります。
執行猶予が付いた場合でも、拘禁刑の対象であることに変わりはないので、当然失職扱いです。
ただし、拘禁刑ではなく罰金刑が確定した場合には、当然失職の対象にはなりません。
懲戒処分を受ける可能性がある
公務員の立場で刑事事件を起こした場合、刑事責任とは別に、懲戒処分を下される可能性があります。
懲戒処分の種類は、事案の状況や問われた罪状の種類、下された刑事処分の内容などの諸般の事情が総合的に考慮されます。
懲戒処分の指針の目安については以下の表を参考にしてください。
| 事由 | 免職 | 停職 | 減給 | 戒告 | ||
| 一般服務関係 | セクシュアル・ハラスメント | |||||
| ア 不同意わいせつ、上司等の影響力利用による性的関係・わいせつな行為 | ● | ● | ||||
| 公金官物取扱い | (1)横領 | ● | ||||
| (2)窃取 | ● | |||||
| (3)詐取 | ● | |||||
| 公務外非行関係 | (1)放火 | ● | ||||
| (2)殺人 | ● | |||||
| (3)傷害 | ● | ● | ||||
| (4)暴行・けんか | ● | ● | ||||
| (5)器物損壊 | ● | ● | ||||
| (6)横領 | ||||||
| ア 横領 | ● | ● | ||||
| イ 遺失物等横領 | ● | ● | ||||
| (7)窃盗・強盗 | ||||||
| ア 窃盗 | ● | ● | ||||
| イ 強盗 | ● | |||||
| (8)詐欺・恐喝 | ● | ● | ||||
| (9)賭博 | ||||||
| ア 賭博 | ● | ● | ||||
| イ 常習賭博 | ● | |||||
| (10)麻薬等の所持等 | ● | |||||
| (11)酩酊による粗野な言動等 | ● | ● | ||||
| (12)淫行 | ● | ● | ||||
| (13)痴漢行為 | ● | ● | ||||
| (14)盗撮行為 | ● | ● | ||||
公務員が逮捕された場合の流れ
ここからは、公務員が刑事事件を起こして逮捕されたときの刑事手続きの流れについて解説します。
【逮捕後48時間以内】取り調べを受け検察へ送致される
公務員が警察に逮捕されると、まず警察での取り調べが実施されます。
警察の取り調べには、逮捕後48時間以内という制限時間が設けられており、制限時間を迎えると、被疑者の身柄は検察官に送致されます。
ただし、一定の軽微な犯罪(被害額が極めて少ない窃盗事件など)については、微罪処分が下される可能性もゼロではありません。
微罪処分となった場合、送致されずに警察段階で刑事手続きが終了します。
微罪処分の獲得に成功すれば、送検されずに刑事手続きが終了するので、早期の社会復帰を期待できるでしょう。
【逮捕後72時間以内】引き続き身柄の拘束を継続するか決定される
検察は、警察から被疑者の身柄を受け取ると、被疑事実について取り調べをおこないます。
検察での取り調べには、送致後24時間以内という制限時間が設けられています。
つまり、警察段階の48時間以内、検察段階の24時間以内の合計72時間以内に得られた証拠や供述をもとに、検察官が起訴処分と不起訴処分のどちらの処分を下すかを決定することになるのです。
なお、検察によって起訴処分が下されると刑事裁判で審理を受けなければいけません。
一方、不起訴処分の獲得に成功すれば検察段階で刑事手続きは終了します。
不起訴処分が下されると有罪になる心配もなくなりますし、前科がつくこともありません。
【最大20日】検察官から取り調べを受け、起訴・不起訴が決定される
逮捕されてから検察官が起訴・不起訴を決定するまでの身柄拘束期間は72時間以内が原則です。
しかし、刑事事件の内容や被疑者の供述内容などによっては、72時間以内の取り調べだけでは起訴・不起訴の判断ができないケースもあります。
その場合、検察官は裁判所に対して勾留請求をする可能性が高いです。
そして、裁判所が検察官の勾留請求を認めると、被疑者の身柄拘束期間は10日間の範囲で延長されます。
また、10日間の延長でも足りない場合、勾留の再延長請求がおこなわれて、被疑者の身柄拘束期間は最長20日間まで延長されます。
つまり、公務員が刑事事件を起こして逮捕・勾留されると、検察官が起訴・不起訴を決定するまでに、最長23日間の身柄拘束期間が生じる可能性があるのです。
仮に不起訴処分を獲得できたとしても、数週間にも及ぶ身柄拘束期間が生じるだけで、被疑者である公務員の社会生活にはさまざまな影響が生じるでしょう。
【起訴から約1ヵ月後】刑事裁判を受ける
検察官が起訴処分の判断を下した場合、公開の刑事裁判を受ける必要があります。
刑事裁判が開かれるのは、起訴処分が下されてから1ヵ月〜2ヵ月後が目安です。
刑事裁判では証拠調べ手続きや弁論手続きがおこなわれ、得られた証拠を前提に、裁判官が判決を下します。
そして、裁判によって実刑判決が下されると、被告人の身柄はそのまま拘束されて刑務所に収監されます。
刑期を満了するまで服役を強いられるため、出所後の社会復帰は極めて困難になりかねません。
そのため、刑事裁判にかけられたときには、罰金刑や執行猶予付き判決の獲得を目指すことになるでしょう。
ただし、罰金刑や執行猶予付き判決も有罪であることに変わりはありません。
公務員が逮捕されたら、リスクを避けるためどうしたらいい?
公務員が刑事事件を起こして逮捕された場合、将来的に起こる可能性があるデメリットをできるだけ回避・削減するために適切な対応をしなければなりません。
ここでは、公務員が逮捕されたときの対処法について解説します。
逮捕後の流れや取り調べをどう受けたらよいかの知識を得る
公務員が刑事事件を起こして逮捕された場合、できるだけ早いタイミングで以下の知識・情報を収集してください。
- 逮捕されたあとの刑事手続きの流れ
- 刑事事件を起こした被疑者が押さえておくべき注意事項
- 自分が起こした刑事事件の内容・種類を踏まえたうえで今後想定される刑事処分の内容
- 事情聴取における供述方針・供述内容 など
これらの情報があれば、警察などの捜査活動に遅れをとることなく、適切な防御活動を展開しやすくなるでしょう。
なお、これらの情報を入手するには、刑事事件への対応が得意な弁護士を頼るとスムーズです。
当番弁護士や国選弁護人を利用するのも間違いではありませんが、より正確な情報をスピーディーに入手したいなら、刑事事件に強い私選弁護人に相談することを強くおすすめします。
家族や職場へなるべく早く連絡をする
逮捕されて捜査機関に身柄を押さえられると、スマートフォンなどの通信機器は没収され、家族や職場に直接連絡できなくなります。
そのため、公務員が逮捕された場合、できるだけ早いタイミングで家族や職場との間で情報を共有しなければなりません。
逮捕後すぐに弁護士に連絡をすれば、家族や職場への連絡なども任せることができます。
自分で連絡をするのは難しいので、外部へ情報を共有する意味でも、早期に弁護士へ相談しましょう。
被害者との示談交渉を速やかにすすめる
窃盗罪や痴漢、詐欺など、被害者がいるタイプの刑事事件を起きたときには、できるだけ早いタイミングで被害者との間で示談交渉を進めてください。
というのも、早期に示談交渉をまとめることができれば、刑事手続きにおいて以下のメリットを得られるからです。
- 警察にバレる前に示談が成立すれば、刑事事件化自体を予防して民事的解決を期待できる
- 検察官が公訴するかどうかを判断するまでに示談が成立すれば、不起訴処分獲得の可能性が高まる
- 起訴処分が下されたとしても、判決が下されるまでに示談が成立すれば、実刑判決を回避しやすくなる
なお、示談交渉をスムーズに進めたいなら、被害者とのやり取りを弁護士に任せることを強くおすすめします。
示談交渉の経験豊富な弁護士に任せれば、スピーディーに相場通りの示談条件での合意成立を実現しやすくなるでしょう。
公務員が逮捕された場合、速やかに弁護士へ相談・依頼すべき理由
公務員の立場にありながら刑事事件を起こして逮捕されてしまったときには、できるだけ早いタイミングで刑事事件を得意とする弁護士に相談・依頼をしてください。
というのも、弁護士の力を借りることで、以下のメリットを得られるからです。
- すぐに接見をして今後の対応などについてさまざまなアドバイスを期待できる
- 早期の身柄釈放を目指してくれる
- 被害者との間で示談交渉を進めて、できるだけ有利な刑事処分獲得を目指してくれる
それぞれのメリットについて、以下で詳しく解説します。
逮捕後、速やかに面会してくれてアドバイスを受けられる
警察に逮捕されると、すぐに捜査機関から取り調べが実施されます。
そして、刑事手続きがスタートしている以上、逮捕されてすぐの事情聴取での供述内容も証拠として扱われてしまいます。
逮捕されて冷静さを失っている状況では、丁寧に事情を説明できない可能性がありますし、場合によっては、捜査員に誘導されて不利な供述や自白などをしてしまいかねません。
その点、刑事事件に強い弁護士に連絡をすれば、被疑者との間で接見する機会を作ったうえで、事件の状況を総合的に考慮して、どのような供述方針で事情聴取に臨むべきかについてアドバイスをくれるでしょう。
早期の身柄解放を実現するための活動をしてくれる
公務員が刑事事件を起こして警察に逮捕されると、検察官の公訴提起判断までに最長23日間の身柄拘束を強いられる危険性があります。
身柄拘束期間が長引くほど仕事を休まざるを得ない期間も長期に及びますし、心身の負担も大きくなってしまいます。
そのため、逮捕されてしまったときには、できるだけ早いタイミングでの身柄釈放を目指すことも重要な防御目標になると考えられます。
刑事事件を得意とする弁護士は、逃亡や証拠隠滅のおそれがない状態での不当な身柄拘束処分に対して異議を申し立てたり、勾留取り消し請求や準抗告などの法的措置を駆使したりすることで、早期の在宅事件化を目指してくれるでしょう。
被害者と示談交渉を成立させ、不起訴処分を獲得できる可能性が高まる
不起訴処分の獲得に成功すれば、検察段階で刑事手続きを終わらせることができます。
不起訴になれば、有罪になるリスクも消滅しますし、前科持ちになることもありません。
不起訴処分を獲得するには、被害者との間で示談が成立しているかが重要なポイントです。
示談が成立しており、被害者の処罰感情がなくなっていることが明らかになれば、検察官から起訴猶予処分の判断を引き出しやすくなります。
そして、弁護士に示談交渉を依頼すれば、示談交渉について以下のメリットを得られるでしょう。
- 勾留満期までの限られた時間内に示談成立を目指してくれる
- 弁護士が代理人に就任することで、捜査機関から被害者の連絡先を入手しやすくなる
- 怒りや不安で感情的になっている被害者も、加害者本人ではなく弁護士が相手であれば、冷静に交渉に応じてくれやすくなる
- 宥恕条項や清算条項など、示談書に盛り込むべき内容をしっかりと記載してくれる
- 被害者側から示談金を釣り上げられたとしても、相場どおりの示談条件になるように粘り強く交渉してくれる
公務員が逮捕された場合のよくある質問
さいごに、公務員が逮捕されたケースについてよく寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。
公務員が逮捕され懲戒免職となった場合、退職金はどうなる?
公務員が逮捕されて懲戒免職になった場合の退職金の取り扱いについては、以下の国家公務員退職手当法の規定が参考になります。
(懲戒免職等処分を受けた場合等の退職手当の支給制限)
第十二条 退職をした者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職をした者(当該退職をした者が死亡したときは、当該退職に係る一般の退職手当等の額の支払を受ける権利を承継した者)に対し、当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任、当該退職をした者が行つた非違の内容及び程度、当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して、当該一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。
一 懲戒免職等処分を受けて退職をした者
二 国家公務員法第七十六条の規定による失職又はこれに準ずる退職をした者
地方公務員についても、各自治体が同様の条例を定めているのが一般的です。
つまり、公務員が刑事事件を起こして懲戒免職された場合、常に退職金が不支給になるわけではなく、職務の内容や責任の重さ、非行の内容と程度、公務員の非行が国民の信頼に与える影響などの個別具体的な事情を総合的に考慮したうえで退職金が支給されるかが決まるということです。
ただし、内閣人事局は「国家公務員退職手当法の運用方針」において、公務員が懲戒免職されたケースは退職金を全額不支給にするのが原則という運用指針を公表している点に注意が必要です。
退職金には一定期間勤続したことに対する報償、退職後の生活保障、賃金の後払いという性格がある以上、退職金の全額不支給または一部不支給について争う余地があると思われる事案では、弁護士に相談・依頼をして、退職金の不支給決定に対して異議を申し立ててもらうべきでしょう。
公務員が逮捕され職を失った場合、改めて公務員になれる?
公務員が懲戒免職された場合、懲戒免職日から2年間が経過するまでは、公務員に再就職することは禁止されています。
ただし、2年間が経過したあとでも、公務員として再就職するのは現実的には難しいでしょう。
というのも、過去の刑事事件が原因で懲戒免職された経歴を採用段階で隠し通すのは不可能に近いからです。
公務員が逮捕され職を失った場合、一般企業への就職も不利になる?
公務員が刑事事件を起こして懲戒免職される事態に追い込まれた場合、一般企業への転職も不利になる可能性が高いです。
なぜなら、一般企業の就職面接で前科の有無について確認されると正直に回答しなければいけませんし、賞罰欄付きの履歴書の提出を求められた場合には記載義務を課されるからです。
前科を隠蔽したまま内定を得たとしても、採用後に前科の事実が発覚すると、経歴詐称を理由に懲戒解雇されかねません。
とはいえ、公務員試験に合格して公職に従事したというキャリアは就職活動・転職活動で武器になるはずです。
前科や犯罪歴が企業側に発覚したとしても、熱意やスキルなどを誠実にアピールすれば、一般企業へのキャリアチェンジは実現できるでしょう。
公務員が逮捕されたものの不起訴処分となった場合、懲戒免職を必ず回避できる?
公務員が刑事事件を起こしたとき、どのような処分が下されるかは事案の個別事情次第です。
たとえば、実刑判決が確定した事案と不起訴処分が下された事案を比べると、不起訴処分の獲得に成功したほうが懲戒免職を回避しやすくはなるでしょう。
しかし、不起訴処分が下されたからといって、常に懲戒免職を回避できるわけではありません。
さいごに | 公務員が逮捕されたら速やかに弁護士へ相談を!
公務員の職に就いている状態で刑事事件を起こしてしまったときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
刑事事件を得意とする弁護士の力を借りれば、逮捕・勾留による身柄拘束処分によるデメリットの回避・軽減だけではなく、不起訴処分の獲得や実刑判決の回避を実現しやすくなるでしょう。
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