警察の捜査を受けた、または逮捕された場合、「自分の名前がニュースで報じられてしまうのではないか」と不安になる方は少なくありません。
実名報道については明確に定められた法律上の基準があるわけではなく、報道されるかどうかは事件の内容や状況などによって異なります。
そのため、「どのようなときに実名が出やすいのか」「実名報道を避ける方法はあるのか」といった情報を事前に正しく知っておくことが、将来的な不利益を回避するうえでは重要です。
本記事では、実名報道されやすいケースやされにくいケース、報道されるタイミング、そして報道を避けるためにできる対策について解説します。
実名報道とは?マスメディアが被疑者の本名などを明かして報道すること
実名報道とは、事件や事故が発生した際に、報道機関が被疑者の本名などを明らかにして報じることを指します。
実名報道がされる際は、名前のほかにも以下のような情報が開示される場合があります。
- 年齢や職業
- 住所
- 被疑事実
- 顔写真や逮捕時の映像
- 被害者の氏名
実名が報道されなければ、逮捕の事実は家族や親しい人たちの間にとどまります。
しかし、実名が公表されると、インターネットを通じて情報がまたたく間に拡散し、本人やその家族への影響は計り知れません。
そのため、実名報道を防ぎたい場合は、事前に対策を講じる必要があるでしょう。
実名報道の基準|捜査機関とマスメディアがそれぞれ独自に判断をしている
刑事事件が実名で報道されるかどうかは、まず捜査機関が事件の情報をマスメディアに公表するかどうか、次にマスメディアがその情報を報道するかどうかによって決まります。
ここでは、それぞれの段階でどのような基準が用いられているのか見ていきましょう。
1.捜査機関の実名発表の基準
捜査機関は、全ての事件情報をマスメディアに公表するわけではありません。
実名を公表するかどうかは、事件の重大性、社会的関心の高さ、再犯防止や注意喚起の必要性などを踏まえて判断されます。
2.マスメディアの実名報道の基準
マスメディアも、捜査機関の発表を全て報道するとは限りません。
報道各社は、独自のガイドラインに基づき、公益性や事件の影響範囲、被疑者の社会的地位、刑の確定前であることへの配慮などを総合的に考慮して、実名を公表するかどうかを決定します。
実名報道をされる主なタイミング|一番おこなわれやすいのは送検時
刑事事件において実名報道がおこなわれるタイミングは、主に以下の3つです。
- 送検されるとき
- 起訴されたとき
- 刑事裁判のとき
ここからは、それぞれの場面で実名報道がおこなわれる理由を詳しく解説します。
1.送検されるとき
まず、逮捕された被疑者が警察から検察へ送致される「送検」のタイミングで、実名報道がされるケースがあります。
送検の際には、被疑者が護送車に乗せられる場面が報道されやすく、映像や写真が撮影されることも少なくありません。
視覚的なインパクトがあることから、この時点で実名報道がされるケースが最も多いです。
2.起訴されたとき
検察官が被疑者を正式に起訴して刑事裁判を開始すると、その事実がマスメディアに伝わります。
起訴は刑事事件の重要な節目であり、社会的関心も高いため、起訴されたタイミングで実名報道がされるケースも多いです。
3.刑事裁判のとき
刑事裁判が終了し、判決が言い渡されると、裁判の結果がマスメディアに伝わります。
判決時の報道は、事件の結末を伝える意味でも重要視されているため、刑事裁判が終了したタイミングで実名報道がされるケースも多いです。
実名報道をされやすい3つのケース
全ての刑事事件で実名報道がされるわけではありませんが、以下の3つのケースに該当すれば、報道されやすい傾向があります。
- 重大な事件を起こした場合
- 被疑者の社会的地位が高い場合
- 社会的関心が高い事件を起こした場合
ここからは、それぞれのケースについて解説します。
1.重大な事件を起こした場合
生命や身体に対する被害が大きく、法定刑も重い「重大犯罪」の場合は、公共性や社会的影響の大きさから、実名報道される可能性が高いです。
具体的に、以下のような重大犯罪に当てはまる場合は、実名報道の対象となるケースが多いでしょう。
- 殺人、集団暴行
- 強盗殺人、強盗致傷
- 放火
- 不同意性交
2.被疑者の社会的地位が高い場合
社会的地位が高い職業に就いている人物が事件を起こした場合は、事件自体が軽微であっても報道価値が高いとされるので、実名報道される可能性が高いです。
たとえば、被疑者や容疑者が以下のような社会的地位に付いている場合は、実名報道されやすい傾向があります。
- 医師、看護師
- 弁護士、公認会計士、税理士
- 公務員
- 教師、大学教授
- 芸能人、著名人
3.社会的関心が高い事件を起こした場合
社会的に問題視されている犯罪についても、報道機関が事件の背景や手口を広く知らせる目的で、実名報道される可能性が高いです。
社会的関心が高い事件の具体例は、以下のとおりです。
- オレオレ詐欺
- SNSを利用した特殊詐欺、闇バイト
- 飲酒運転、危険運転
実名報道をされにくい3つのケース
以下の3つのケースに該当すれば、報道されにくい傾向があります。
- 未成年者が事件を起こした場合
- 精神障害者が事件を起こした場合
- 逮捕されずに捜査が進んでいる場合
ここからは、それぞれのケースについて解説します。
1.未成年者が事件を起こした場合
被疑者が未成年者の場合、実名報道は原則としておこなわれません。
少年はまだ心身ともに成長の途中にあり、たとえ刑事事件を起こしたとしても、適切な教育や支援を受けることで立ち直る可能性が高いとされています。
そのため、社会として更生の機会を守るためにも、本人を特定できるような実名報道は避けるべきだという考え方が一般的です。
ただし、18歳・19歳の「特定少年」が家庭裁判所から検察に送致され、正式に起訴された場合には、例外的に実名が報じられる可能性があります。
特定少年が起訴される可能性が高いのは、以下のようなケースです。
- 故意の犯罪行為により被害者を死亡させる犯罪を16歳以上で犯したとき
- 死刑または無期もしくは1年以上の拘禁刑に該当する犯罪を18歳・19歳で犯したとき
2.精神障害者が事件を起こした場合
被疑者が精神疾患を抱えており、犯行時に責任能力がなかったと見なされる場合も、実名報道は控えられる傾向があります。
刑法では、心神喪失状態にある者の行為については処罰できないと定められており、責任を問えない人物を公にすることは適切でないと考えられているからです。
ただし、重大事件を起こした場合は、実名報道されることもあります。
3.逮捕されずに捜査が進んでいる場合
在宅事件となるケースや書類送検のみで処理されるケースでは、事件の公共性が比較的低いとされ、実名報道はされないことが多いです。
ただし、地方紙などには実名報道される可能性もあります。
実名報道のリスクが不安な場合は弁護士に相談するのがおすすめ!
一度でも実名報道がされると、ネット上に情報が半永久的に残り、将来的な生活や仕事に大きな影響を与えるおそれがあります。
そのため、もし「実名報道されるのではないか」と不安な場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談するのが重要です。
弁護士に相談することで、主に以下3つのサポートを受けられます。
- 刑事事件化しないようサポートしてくれる
- 警察やマスメディアに対して働きかけをしてくれる
- ネット記事の削除請求といった手続きをしてくれる
ここからは、それぞれのサポート内容について詳しく解説します。
1.刑事事件化しないようサポートしてくれる
警察に事件として認知される前に弁護士に相談することで、刑事事件化を防げる可能性があります。
そもそも事件化することを防げれば、実名報道がされることもないでしょう。
なお、刑事事件として捜査が始まるのは、被害者が「被害届」や「告訴状」を提出したときが一般的です。
そこで、弁護士は加害者側の代理人として被害者との示談交渉をおこない、被害届や告訴状の提出を思いとどまってもらえるよう働きかけます。
なお、被害者との示談成立の見込みが低そうであれば、自首を検討すべき場面もあります。
弁護士に相談しておけば、自首の判断やタイミングについても都度アドバイスをもらえるでしょう。
2.警察やマスメディアに対して働きかけをしてくれる
弁護士は、意見書の提出などを通じて、警察やマスメディアに対し、実名での報道を控えるよう求める働きかけをおこなうことができます。
実名報道を完全に止めることは簡単ではありません。
しかし、弁護士に相談することで、被疑者の家庭状況や社会的影響などを具体的に伝え、報道の必要性を再考してもらうよう訴えてもらえます。
3.ネット記事の削除請求といった手続きをしてくれる
報道内容が事実と異なる場合や、名誉権の侵害が認められる場合には、弁護士はサイト管理者や検索エンジンに対して記事削除や非表示の請求をおこなってくれます。
削除請求は、個人でおこなうこともできますが、自分で手続きするのは難しいのが実情です。
その点、法的な知識と経験をもつ弁護士に依頼すれば、より適切な対応が可能になるでしょう。
さいごに|刑事事件を起こした場合は実名報道をされるリスクがある
本記事では、実名報道される基準やタイミング、そして実名報道のリスクを下げる対策について解説しました。
一度実名報道がされると、情報はネット上で拡散され、将来の進路や家族関係にまで悪影響を及ぼすおそれがあります。
このようなリスクを避けるためには、実名報道がされるおそれを感じた時点で、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
弁護士に相談すれば、被害者との示談交渉、報道機関への働きかけ、ネット記事削除など、さまざまなサポートを受けられます。
ベンナビ刑事事件では、刑事事件を得意とする弁護士を、相談内容やお住まいの地域に応じて簡単に探せます。
自分にあった弁護士を見つけるためにも、ぜひご活用ください。
