- 「虚偽告訴罪とはどのような罪で、どのような刑罰が科せられるのだろうか。」
- 「虚偽告訴罪は、どういう条件で成立するのだろうか。思い込みで告訴したと言われて罪になるのか。」
虚偽の告訴をしたらどのような罪に問われ、今後どうなるか気になっていませんか?
警察などに虚偽の告訴をした場合、冤罪が発生したり警察や裁判所が無駄な対応に浪費されたりしてしまいます。
そのため犯人は、虚偽告訴罪に問われることになるのです。
本記事では虚偽告訴罪とは何かや法定刑、成立要件、虚偽告訴罪のよくあるケースや実際の事例・判例について解説します。
虚偽告訴罪は決して軽い罪ではありません。
本記事を読めば虚偽告訴罪の概要を理解し、実際のケースにあてはめてどのようなときに成立するか判断できるようになります。
虚偽告訴罪とは?|虚偽の告訴・告発をした場合に成立する罪
虚偽告訴罪とは、虚偽の告訴・告発をした場合に成立する犯罪です。
| 告訴 | 被害者やその親族などが犯罪事実を捜査機関に申告し、犯人を処罰するよう求めること |
|---|---|
| 告発 | 犯罪の被害と関係がない第三者(告訴権を持たない第三者)が、犯罪事実を捜査機関に申告し、犯人を処罰するよう求めること |
告訴・告発がおこなわれると、警察や裁判所はそれぞれの役割を果たさなくてはなりません。
それが虚偽であれば、本来は不要な作業に時間が浪費されることになるのです。
虚偽の告訴・告発が増えれば、警察や裁判所は正常に機能しなくなってしまいます。
また虚偽の告訴・告発がおこなわれた結果、何の罪もない方が逮捕され、長期的に身柄を拘束されてしまう可能性もあるのです。
それによって会社を解雇されるなど、不利益を被る可能性もあるでしょう。
こういった警察・裁判所などに対する被害、告訴された個人に対する被害を防ぐため、虚偽告訴罪が定められているのです。
虚偽告訴罪で起訴された場合、3ヵ月以上10年以下の拘禁刑が科される可能性があります。
虚偽告訴罪に罰金刑はありません。
それだけ厳しく罰せられる可能性があるということです。
虚偽告訴罪の成立要件
虚偽告訴罪の成立要件は以下のとおりです。
■相手に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的があること
相手に刑事罰・懲戒処分を受けさせることを目的として、虚偽の告訴・告発をすることです。
逆にいうと虚偽の告訴・告発だったとしても、それによって刑事罰・懲戒処分を受ける可能性がないなら虚偽告訴罪は成立しません(ただし、他の犯罪(名誉棄損罪等)が成立する可能性があります)。
■虚偽の告訴・告発であること
その告訴・告発が虚偽である必要があります。
告訴・告発の内容が事実であれば、虚偽告訴罪は成立しません。
■故意性が認められること
虚偽の告訴・告発が故意でおこなわれている必要があります。
たとえば相手に刑事罰をあたえるつもりで、わざと警察に嘘の事実で告訴することです。
反対に相手が本当に罪をおかしたと思い込み、勘違いで告訴をした場合、虚偽告訴罪に問われることはありません。
虚偽告訴罪の時効
虚偽告訴罪の公訴時効は「7年」と定められています。
虚偽の告訴・告発がおこなわれてから7年が経過すると、刑事責任を問われなくなります。
虚偽の告訴によって、民事訴訟で損害賠償が請求される可能性もある
虚偽の告訴・告発によって、相手の名誉や権利が侵害された場合、民事訴訟で損害賠償を請求される可能性もあります。
虚偽の告訴・告発によって、相手は逮捕されたり長期的に身柄を拘束されたりするかもしれません。
その結果、会社を解雇されたり社会的信用を失ったりすることも考えられます。
民事訴訟でこうした損害を賠償するよう求められる可能性があるのです。
虚偽告訴罪と虚構申告罪の違い
虚偽告訴罪とよく間違えられるのが、軽犯罪法上の「虚構申告罪」です。
虚構申告は、虚偽の犯罪事実や災害の発生を公務員に申し出た場合に成立する犯罪です。
虚偽告訴罪と虚構申告罪は虚偽の事実を申告するという点は共通していますが、いくつか違いもあります。
以下、主な違いをまとめました。
| 項目 | 虚偽告訴罪 | 虚構申告罪 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 刑法第172条 | 軽犯罪法第16号 |
| 対象行為 | 特定の人物に刑事罰・懲戒処分を受けさせる目的で、虚偽の犯罪事実を申告すること | 公務員に対し、犯人を特定せず虚偽の犯罪事実や災害を申告すること |
| 告訴・告発 | 必要 | 不要 |
| 他人に刑事処分や懲戒処分を受けさせようとする意図 | 必要 | 不要 |
| 法定刑 | 3ヵ月以上10年以下の拘禁 | 拘留または科料 |
虚構偽申告罪は虚偽告訴罪と違い、犯人は特定されず告訴・告発を必要としません。
また虚構申告罪は虚偽の犯罪事実だけでなく、災害の申告も対象です。
たとえば以下のようなケースは、虚偽告訴罪でなく虚構申告罪に問われる可能性があります。
- (犯人を特定せず)空き巣に入られたと警察に申告する
- 110番や119番に電話して「●●が火事です」と、虚偽の通報をする
虚偽告訴罪のよくあるケース
ここでは、虚偽告訴罪のよくあるケースを紹介します。
性被害をでっちあげ、金銭を要求したり相手の気をひいたりするケース
痴漢や不同意わいせつ、セクシャルハラスメントなどの性被害を訴え、金銭を要求したり相手の気を引いたりするケースです。
たとえば、示談金の支払いを得ようとする意図から、痴漢行為を捏造し告訴することがあります。
この場合、虚偽告訴罪のほか詐欺罪・恐喝罪が成立する可能性もあります。
性犯罪は、満員電車などの人混みや、第三者の目が届かない密室などで発生することが多いので、無実を立証するのが極めて困難です。
また、被害者の証言が刑事手続上で重視される傾向があるため、虚偽の告訴がされやすい傾向があるといえます。
報復目的で相手を陥れるため、虚偽の告訴をおこなうケース
過去のトラブルや人間関係のもつれから、仕返しのために相手に濡れ衣を着せようとするケースもあります。
たとえば、交際相手との別れ話がこじれた結果、「暴力をふるわれた」などと警察に嘘の告訴をすることがあります。
証拠や目撃者の証言がなければ警察が動かない場合もありますが、個人的な感情を動機として虚偽の告訴がおこなわれると、結果として相手の名誉や社会的信用を大きく傷つける可能性があります。
虚偽告訴罪の事例・判例
ここから、実際に発生した虚偽申告罪の事例・判例を紹介します。
【2008年】痴漢冤罪により虚偽告訴罪が成立した判例
2008年8月、大阪地裁は虚偽告訴罪等で起訴された被告人(女性)に懲役3年・執行猶予5年の判決を下しました。
被告人は、示談金を得るため、共犯男性とあらかじめ役割分担を決めたうえで、痴漢に遭いやすい服装を装って電車に乗り込みました。
その後、車内で中年男性に接近し、互いの身体が接触するほどの位置に近づいたうえで、中年男性から身体を触られたと被害を訴えました。
共犯男性は駆けつけた警察官に対して「中年男性が、撫で回すように女性のお尻を触っていた」などと虚偽の申告をしました。
裁判所は、「警察官までをも欺き、本来、社会や市民の人権を守るための砦となるべき司法手続を、その金銭欲のためによこしまな方法で悪用しようとしたものであって、その卑劣な手段に酌量の余地はない」などと判示しました。
【2024年】虚偽の性被害で3,000万円を要求した女性に有罪判決が出た判例
2024年5月、大阪地裁は虚偽告訴罪で起訴された被告人(20代女性)に懲役1年6ヵ月・保護観察付き執行猶予3年の判決を下しました。
被告人は、共犯者とともにマッチングアプリで高収入の男性を狙い、合意の上で関係を持った後、「睡眠薬を盛られたかもしれない」と 119番に虚偽の通報をしました。
その後被告人は警察にも被害を申告したうえで、男性に賠償金として3,000万円を要求したのです。
男性が支払いを拒むと、被告人は共犯者の指示に従い、脅され押さえつけられ強制的に性行為をさせられたとする虚偽の被害届を提出しました。
その後、共犯者はしつこく男性に接触を試み金銭を要求します。
しかし、男性がその際に録音した会話内容から虚偽告訴であることが発覚したのです。
被告人は、キャバクラ勤務時代の客だった共犯者に金に困っていると相談をしたところ、今回の犯行を提案されたという事情がありました。
また、背後に詐欺や脅迫を繰り返す犯罪グループが存在していたことも判明しました。
虚偽告訴罪についてよくある質問
ここでは、虚偽告訴罪に関するよくある質問をまとめました。
似たような疑問をお持ちの方は、ぜひここで疑問を解消してください。
虚偽告訴による慰謝料相場はどのくらい?
虚偽告訴による慰謝料の相場は、軽度な名誉毀損では数十万円、逮捕や報道があった場合や身体拘束により仕事を失った場合などは 100万円〜300万円以上になることもあります。
金額は被害の内容や影響の大きさによって左右します。
思い込みで誤った告訴をしてしまった場合も虚偽告訴罪に問われる?
思い込みで被害届や告訴を出した場合は、基本的に虚偽告訴罪にはなりません。
虚偽告訴罪が成立するためには、事実に反する内容を故意に警察などの捜査機関に伝え、他人を刑事処分や懲戒処分に追い込もうとする目的が必要です。
そういった意図がなく思い込みで告訴したとしても、罪に問われることはありません。
ただし、実際には申告者が本当に故意でなかったか、立証するのは困難です。
そのため虚偽申告罪が問われるケースは少なくなっています。
さいごに|虚偽告訴に関するトラブルは弁護士に相談を!
虚偽の告訴によって、告訴された側は社会的信用を失うなどして深刻な影響を受ける可能性があります。
また警察や裁判所が、虚偽と知らずに告訴に対応することにより無駄な作業に時間を浪費されてしまうことにもなるのです。
虚偽の告訴をおこなった場合は、重い罪に問われる可能性も否定できません。
逮捕を回避したり罪を軽減したりするためにも、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが強く推奨されます。
弁護士に相談・依頼すれば、依頼者の状況を踏まえ、逮捕の回避や刑罰の軽減に向けた法的な活動を行うことが期待できます。
弁護士検索サイトなどを活用すれば、刑事事件の取り扱いに注力している弁護士を探すことができます。
今後の人生に与える影響を最小限に抑えるためにも、早めに弁護士に相談しましょう。
