相続放棄を考えているとき、「亡くなった家族の年金はどうなるのか」「相続放棄後に受け取れるのか」と疑問を持つ方は少なくありません。
結論から言えば、相続放棄をしても未支給年金を受け取ることは可能です。
ただし、請求できるのは亡くなった月までの分に限られ、受け取れる人の順位や期限など、いくつかの注意点があります。
本記事では、相続放棄をしても未支給年金を受け取れる理由と法的根拠、具体的な手続きの流れ、そして注意すべきポイントを詳しく解説します。
手続きの方法を理解しておくことで、トラブルを避けながら安心して請求を進められるようになるでしょう。
相続放棄をした場合でも未支給年金は受け取れる!
相続放棄をおこなうと、故人の財産や借金などを一切受け継がないことになります。
そのため「未支給の年金も全て放棄しなければならないのでは」と不安に思う方もいるでしょう。
しかし、未支給年金は相続財産ではなく、遺族が固有の権利として受け取れるお金です。
そのため、相続放棄をしていても未支給年金は受け取ることができます。
そもそも未支給年金とは、年金受給者が亡くなった際に、まだ支給されていなかった年金のことです。
厚生年金保険法第37条および国民年金法第19条では、これらの年金について「生計を同じくしていた遺族が請求できる」と明記されています。
また、最高裁判所平成7年11月7日判決においても、未支給年金は「被相続人の遺産ではなく、遺族の固有財産である」と判断されています。
したがって、相続放棄をしたとしても、未支給年金を受け取ることが相続放棄の撤回や無効につながることはありません。
故人の年金について受け取れるのはどのタイミングのもの?
遺族は被相続人の未支給年金を請求できますが、その範囲を正しく理解することは重要です。
ここでは、「どの期間の年金が相続財産に含まれるのか」「どこまでが未支給年金として受け取れるのか」を具体的に整理します。
1.生前受け取っていた年金|被相続人の財産に含まれる
故人が生前に受け取っていた年金は、すでに受給者の手元に渡っているため、相続財産に含まれます。
たとえば、亡くなる前に振り込まれた分の年金や、すでに現金・預貯金として保有していた分は、ほかの財産と同様に相続の対象です。
そのため、相続放棄をした人は、これらの年金分も受け取ることはできません。
もし故人の口座に生前分の年金が残っていた場合、そのお金を引き出すことは相続財産の処分とみなされ、相続放棄が無効になるおそれがあります。
故人の年金口座に残高がある場合は、勝手に引き出さず、相続放棄の手続き完了後に年金事務所へ相談することが大切です。
2.亡くなった月までの年金|相続人の固有の財産になる
亡くなった月までに発生した年金で、まだ支払われていない分は未支給年金として扱われます。
これは相続財産ではなく、遺族が固有の権利として請求できるお金です。
そのため、偶数月に2ヵ月分の年金が後払いで支給される場合は、亡くなった月の前月や当月分が未支給になることがあります。
この場合、生計を同じくしていた配偶者や子どもなどの遺族が、年金事務所を通じて請求手続きをおこなえば受け取ることが可能です。
受け取れる金額は、亡くなった月までの年金額に応じて変わります。
請求には戸籍謄本や住民票、生計同一を証明する書類などが必要となるため、年金事務所で事前確認をおこなうことが望ましいでしょう。
3.亡くなった月以降の年金|返金の手続きが必要になる
亡くなった月の翌月以降に支給された年金は、本来支給対象ではありません。
もし年金支給日よりも前に亡くなっていた場合でも、システム上、故人の口座に振り込まれてしまうことがあります。
その場合、受け取った年金は「行き過ぎた支給」となり、日本年金機構への返金手続きが必要です。
故人の口座から引き出して使用してしまうと、返還を求められるだけでなく、相続放棄者が「財産を処分した」とみなされるおそれもあります。
誤って振り込まれた場合は、自分で判断せず、速やかに年金事務所や日本年金機構へ連絡し、返金方法の指示を受けましょう。
相続放棄後に未支給年金を受け取るための大まかな流れ
未支給年金を受け取るには、必要書類の準備と年金事務所での手続きが必要です。
ここでは、実際の申請手順を2つのステップに分けて詳しく説明します。
1.未支給年金の申請に必要な書類を用意する
未支給年金の請求をおこなう際に必要な書類は、「死亡の届出に必要な書類」と「未支給年金の請求に必要な書類」の2種類に分けられます。
まず、死亡の届出に必要な書類としては、以下の3点が挙げられます。
| 書類名 | 内容・目的 |
|---|---|
| 受給権者死亡報告書 | 年金受給者の死亡を年金機構に知らせる届出書 |
| 個人年金証書 | 故人が受給していた年金の種類・基礎情報を確認するために必要 |
| 死亡を確認できる書類 | 住民票除票、戸籍抄本、死亡届または死亡診断書の写しなど |
次に、未支給年金の請求には、以下7点の書類が必要となります。
| 書類名 | 内容・目的 |
|---|---|
| 未支給年金・未支払給付金請求書 | 日本年金機構が定める請求用紙。年金事務所または公式サイトで入手可能 |
| 故人名義の年金証書 | 故人が受給していた年金の受給権確認に使用 |
| 戸籍謄本など関係を示す書類 | 故人と請求者の続柄を証明する |
| 故人の住民票除票の写し | 故人の住所・世帯状況を確認する |
| 請求者の世帯全員の住民票の写し | 同一世帯か否かを確認するために必要 |
| 請求者の通帳 | 振込先金融機関を指定するために必要 |
| 生計同一に関する申立書 | 故人と受取人が別世帯であった場合に提出が必要 |
必要書類は、別居、扶養関係、遺族の続柄など個々の状況によって異なる場合があります。
そのため、事前にねんきんダイヤルや年金事務所に確認しておくのがおすすめです。
なお、「受給権者死亡報告書」や「未支給年金・未支払給付金請求書」は、日本年金機構の公式サイトからダウンロードできます。
2.最寄りの年金事務所などに書類を提出する
未支給年金の請求書類がそろったら、亡くなった方の住所地を管轄する年金事務所、または年金相談センターなどの窓口に提出します。
提出先は、故人が加入していた年金制度(国民年金・厚生年金・共済年金など)によって異なるため、まずは最寄りの年金事務所で確認しましょう。
なお、提出時には運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類を提示する必要があります。
郵送での提出も可能ですが、書類に不備があると再提出を求められるケースもあるため、できれば窓口で職員に確認してもらうのがおすすめです。
また、相続放棄をしている場合は「相続放棄申述受理証明書」を添付することが重要です。
これにより、相続人としてではなく「未支給年金を受け取る権利者」として手続きを進められます。
相続放棄後に未支給年金を受け取る場合の4つの注意点
未支給年金を請求するには、制度の仕組みだけでなく注意点を押さえておくことがトラブル回避につながります。
以下では、4つの注意点について説明します。
1.未支給年金を受け取る場合は順位が決まっている
未支給年金を請求できるのは、故人と生計を同じくしていた3親等以内の親族に限られます。
また、請求には以下のような順位が定められている点にも注意が必要です。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- その他の3親等内親族
この順位は法令上明確に定められており、上位の受給資格者が存在する場合、下位の親族が請求しても認められません。
また、「生計を同じくしていた」という条件は、必ずしも同居を意味するものではありません。
別居していても、仕送りや生活費の援助などを通じて経済的なつながりが確認できれば、同一生計と認められる場合があります。
請求資格を巡って親族間で争いが起こることもあるため、可能であれば事前に年金事務所で受給資格の確認をおこなうことが望ましいでしょう。
戸籍謄本や住民票、仕送り記録など関係性を客観的に示す書類をそろえておくと、審査がスムーズになります。
2.未支給年金の請求期限は5年間と決められている
未支給年金には請求の期限があり、故人が亡くなった日の翌日から5年以内に申請しなければ受給権が消滅します。
この期限は、国民年金法および厚生年金保険法で定められており、経過すると正当な理由があっても支給されません。
とくに相続放棄をおこなう場合、手続きが煩雑になりがちで申請を後回しにしてしまうケースが多いため、死亡届の提出と同時に未支給年金の手続きも進めることが推奨されています。
申請の受付は最寄りの年金事務所や年金相談センターでおこなわれ、必要書類がそろっていれば即日受理されます。
期限内であっても、書類の不備や関係性の証明不足があると審査が長引くこともあるため、早めの準備が大切です。
3.未支給年金の金額によっては確定申告が必要になる
未支給年金は、受け取った人の一時所得に該当するため、場合によっては確定申告が必要になります。
具体的には、未支給年金を含むその年の一時所得の合計額が50万円を超える場合には、確定申告をおこなわなければなりません。
受給額が少ない場合は申告が不要となるケースが多いですが、生命保険金や退職金など他の一時所得がある場合には、合算して課税対象となることがあります。
判断が難しい場合は、最寄りの税務署や税理士に相談し、正確な課税要否を確認することが重要です。
4.故人の口座に振り込まれると取り出すことができない
故人が亡くなったあと、支給日の関係で年金が自動的に口座に振り込まれてしまうことがあります。
しかし、この年金は本来支給対象外のため、遺族が自由に引き出してはいけません。
亡くなった月以降に振り込まれた年金は、いわゆる「行き過ぎた支給」として扱われ、日本年金機構への返還が必要になります。
仮に相続放棄の手続きを進めている最中に故人の口座からお金を引き出すと、「相続財産を処分した」とみなされ、相続放棄が無効になるおそれがあります。
もし誤って年金が振り込まれていた場合は、できるだけ早く年金事務所または日本年金機構に連絡し、返金手続きの案内を受けましょう。
自分で判断して動かさず、必ず公的機関の指示に従うことが大切です。
さいごに|未支給年金の申請については社労士などに相談しよう!
未支給年金の請求手続きは、戸籍や住民票、生計関係の証明、請求書類の記入など、複雑な要素が関係します。
制度上受給できる権利があっても、書類の不備や関係性の証明不足が原因で、申請が認められないケースもあります。
とくに相続放棄手続きを同時に進めている場合は、手続き間での整合性や、誤った行為が相続放棄の無効を招くリスクもあるため注意が必要です。
このような場面では、社会保険労務士や相続に精通した弁護士、司法書士といった専門家に相談することで、手続きのミスを防ぎ、受給可能性を確保しながら安心して進めることができます。
未支給年金は、故人が受け取れなかった正当な年金です。
制度の趣旨や権利を正しく理解し、必要なら専門家の知見を借りながら、適切に請求を進めていきましょう。
